長編
□想い 〜さいかい〜
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「―――これいじょう俺に何を伝えろって言うの!?」
「戦いたくないって言う、お前の気持ちは伝えてるのか?」
アルヴィスの最下層、ウルドの泉。ワルキューレの岩戸と、背中合わせに存在しており、北欧神話に登場する浄化の泉が由来で、「フェストゥムとの戦いに終止符を打ち、地球を清める」という願いが込められている。
その中を、来栖と一騎は歩いていた。
「無理だよ、ミールは君たちで言う、神様なんだ。神様には逆らえない……」
いつかと同じように諦観の言葉を吐く来栖は
一度、足を止め、こういった。
「ねえ、コアが死んでしまうよ」
それを聞いた一揆は振り返り、足を止める。
「俺達は、人とは戦わない。お前達と一緒に世界中と戦うなんて、望まない。そんなことをしたら、それはもう俺じゃない!」
人とは戦わない。それは彼の父親、真壁史彦が言ったことと、同じであった。彼の信念は、一騎に受け継がれていたのだ。
「俺だって……」
来栖は一騎の言葉に顔をそらし、
「君のいうとおりにしたら、もう俺じゃなくなるよ……」
そういったのだった。
――――
戦いが終わり、朝を迎えた竜宮島。雲に覆われ、日は見えず、ただ時だけが、朝と夜を伝えてくれるだけで、島ももはや、見る影が無いほどに朽ちている。
――――
現在戦闘区域から外れている向島。自然も殆ど残っているその山に、一人の少女がいた。
彼女は立上芹。彼女は森が割れ、ちょうど海が見える位置で、土で出来た山の頂上に石を挿したようなものを作っていた。芹が立ち上がると、彼女の周りには同じようなものがいくつも並んでいた。その土の山の形と数は、とある場所を連想させる。
それを眺める彼女の顔は暗いものだった。
「驚いたな」
「え……」
芹はその声に驚き、振り向いた。彼女の前に立っていたのは、真壁史彦だった。史彦は土の山を見て、こういった。
「敵との対話を望んだものは知っているが、敵の墓標を作ったものは、初めてだ」
そう、芹が今まで作っていたのは敵、フェストゥムの墓だった。彼女は、今まで自分が倒したフェストゥムの墓を作っていた。
史彦の言葉に、芹は顔を伏せた。
「乙姫ちゃんは敵にも伝えようとしてました。みんなの悲しい気持ちを……」
そういって彼女は、さらに顔を伏せる。
「でも私は、何も出来なくて」
そして、史彦と同じようにフェストゥムの墓を見て、言った。
「変ですよね。こんなの」
「いや」
史彦は芹の言葉を否定した。そして驚いたような顔をする彼女をみて、口を開く。
「見方の市は背負うことが出来る。だが、敵の死は、刻み込むしかない」
そこで一旦史彦は言葉を切り、もう一度、墓標を見る。
「永遠に」
「真壁指令……人間とも戦ったんですよね」
芹は顔を上げ、史彦を見た。
「あの、私に用があってきたんですか?」
「おそらく君にしか、出来ないことだ」