長編
□想い 〜さいかい〜
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真壁一騎は来栖操と、共に水中展望室を訪れていた。理由は簡単。来栖が見たいと言ったからである。
来栖はガラスに手を当てて、食い入るように見ている。
幾許かの時間がたったとき、椅子に座っていた一騎は来栖に声をかけた。
「なんで、お前は総士を助ける」
その問いに、来栖は振り向き、一騎に一歩歩み寄る。そして、無邪気な笑顔を浮かべ、こう答えた。
「ずっと探してたんだ。俺意外に、空が綺麗だって想う存在を」
そこまで言うと、一旦言葉を切る。そして、また笑顔を浮かべ、
「そうしたら、彼がいた」
そういった。その言葉に一騎は戸惑ったような口ぶりで、「お前は想うのか?」と言った。
「空が綺麗だって」
「うん」
来栖は頷き、両手を広げた。
「君もそう想うでしょ」
そういう来栖の顔は活き活きとしている。まるで、それが生きがいだと言わんばかりの表情だ。来栖の言葉を聞いた一騎は、少し、顔を伏せる。
「俺には、もう空が見えない」
「……え……」
「もうじき、何も見えなくなる」
そこまで一騎は言うと、顔を上げ、と右手を前に翳す。
「代わりに俺の指は、ソコにあるものを伝えてくれる」
その口ぶりは、以前自らの存在を、"指”にたとえた来栖に言い聞かせようとしているようでもあった。
「…………」
来栖は口を開けて、何も言わなかった。目を丸くし、驚いているようにも、困惑しているようにも見える。
「ずっと考えていたんだ」
一騎は言葉を続ける。
「総士がお前に望んだのは、何だったのかを」
其処まで言った一騎は、椅子から立ち上った。
「お前が、お前達のミールに伝えるって事なんじゃないか?」
「伝える?なにを」
来栖は、一騎が何を言おうとしているかが判らないといったそぶりで一騎に訊いた。
「お前達に平和なんて、作れない。痛みから逃げて。全部、誰かのせいにして……!」
一騎の脳裏には、過去の出来事が鮮明に写っていた。
―――フェストゥムと共に自爆した、黒髪の病弱な少女―――
―――自らもフェストゥムになってまで、俺達を助けてくれた茶髪の少年―――
―――自分の大切なものの為に、その命を散らしたバンダナの青年―――
―――今の平和があるのは、あいつらの命と引き換えに、仲間達と痛みを分けて、手に入れたものだ。それをお前達は知らない。