長編
□祭り 〜さとう〜
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竜宮島地下、アルヴィスのファフナーブルグ。其処はどこか、遠いところから来た敵、フェストゥムに対抗するために作られた巨人が佇む場所。
そこからはキーボードを打つ音が延々と聞こえている。彼、レイ・ベルリオーズは一年と半年に渡り進めてきていたプロジェクトの最終確認を行っていた。ある人物のために製造しているファフナー、それがもうすぐ完成を迎えるのだ。
「もう、そのへんにしておけよ、もうすぐ祭りがあるんだぞ」
整備士の一人が彼に声をかけるが、レイは「もうすぐ終わるんです」とだけ言い、また作業に戻る。彼女のために、一年と半年も掛けて造ったもの。それがもうすぐ完成を迎える。今の彼はそれが嬉しかった。
「……これで、終わり」
最後の確認を終え、画面を切り替える。そこに映し出されたデータはその全てに完成を知らせていた。上を見上げる。目の前に佇むのは深紅。
レイはそれを愛しそうに見つめ上げる。その赤いカラーは彼にとって特別な色でもある。この島に来る前、人類軍にいたときよりも前、まだタブリンにいたころから彼の傍にいた赤い髪の少女。
「……さて、そろそろ祭りもあることですし、名残はつきませんが」
そう言い残し、彼はエレベーターに乗る。また生徒会サボった事怒られるかな、と考えながら。
―――
「まったく、あいつはいつもいつも、この前だって―――」
そう言いながら夕暮れの道を歩いている彼女は羽佐間カノン。彼女が怒っているのは他でもない、レイのことだ。彼女はレイが生徒会の仕事をサボっているのは自分の為であるとは知らない。レイが教えていないし、他の人にも伏せてもらっているのだ。何故伏せてもらっているのはとても単純で、どうでも良いような理由である。
「はあ……」
カノンは溜息をつき、少し自嘲気味に笑う。飼い犬のショコラが首をかしげているのは気にしない。
「あいつにも、事情があるのも分かっているつもりなのに、何を怒っているんだろうな」
彼女も、彼がなんらかの理由があって生徒会に顔を出さないのは分かる。だが、せめて一言言ってくれば、私だって手伝えることがあるだろうし、と彼女に思考はだんだん関係ない方向に進み始め、それまで寂しそうに伏せていた顔をぱっと顔を起こし
「今日あいつに会ったら、思いっきり甘えてやる!!」
そう大声で空に宣誓し、家に向かって走り出す。
ショコラは一瞬遅れた後、「ワン、ワン」とほえながら走り出す。
一方その影では……
「今日はなるべく会わないほうが良いかもしれません……」
レイが少し顔を引きつらせながら出てきた。
ああいった後のカノンは別の意味で怖いのだ。
まだタブリンにいたころ、祭りの日にレイはデレデレのカノンに振り回され、次の日に、疲労で体調を崩し、学校を休んだ記憶がある。
「……前途多難ですね」
そうつぶやくレイの前を、自転車で溝口がヒーヒー良いながら通り過ぎていった。