長編

□悲劇 〜かべ〜
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      どさ

「…レ……イ…?」

カノンが目にしたのは、マークヌルの前で倒れこむ人影、カノンは嘘だと思いたかった。嘘だと、これは夢なのだと、だが、ファフナーの搭乗者の証である、シナジェティックスーツに淡い金色の髪が、カノンに真実を告げ、その身の高鳴る心の臓の鼓動が、夢ではないとささやくのだった。

「レイ!!」

カノンはレイに駆け寄り、彼を抱き寄せる。彼の額には脂汗がにじみ、どこか中性的な顔立ちは、苦痛にゆがんでいた。

「レイ!しっかりして、ねえ!」

救護班は、現在手一杯で、容子を搬送したりも含め、来るにはもう少し時間が掛るだろう。だが、カノンにはそんなことはどうでも良かった。

ただひたすらに、涙を流し、彼の名を呼び続けた。


――――

医務室

医務室には真壁史彦と遠見千鶴が向かい合って、座っていた。

「フェストゥムが、発する物質には、各と同じ毒素が含まれており、ソレは今後、島民の多くに発祥すると考えられます。また、フェストゥムの因子を持つファフナーのパイロットに発祥の傾向は見られなく、逆に、因子を持たないレイ君は例外的に、発祥したものと思われます」

千鶴はいったん言葉を切り、注射器のようなものを取り出す。

「本来、ファフナーとの一体化を促すために、意図的にどうか現象を起こす薬ですが、今はこれ以外に症状をとめる術はありません」

千鶴の言葉は段々小さくなってゆく。だが、史彦はひるむ様子もなく

「お願いします。千鶴さん」といった。

その目に、迷いはなく、その目を見た千鶴は顔を伏せ

「貴方が生きられるのなら、いっそ、あのフェストゥムの言うとおりにしたほうが言いと、思ってはいけないのに、どうしても……ッ」

そういう千鶴の声は震えていた。注射器をもつ手も震えている。その手にもう1つ別の手が添えられた。真壁史彦である

「希望はあるはずです」

史彦は言った。

「我々のコアの導きに、従いましょう」

その目の先には、一人の少女の写真が移されていたのだった。
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