青の祓魔師/短編

□暑いってば
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「なあなあー、」


『んー?』


「なあって、」


『だから何ーって』



八月の暑さはとどまることを知らず、中旬になって暑さはピークを迎えたようにも思える。
ただじっとしているだけで汗が噴出してくるようで、できることなら冷たい水にずっとつかって居たいくらいだ。
こんなに暑いというのにこの男は涼むということを知らない。



『志摩、暑い』


「せやねー、」


『違うって、志摩が引っ付いてるから暑いの』


「えー? だって傍におりたいんやんか」


『志摩の所為で汗出ちゃうよ』



あたしが困ったように服をパタパタさせたって、志摩は全然離れてくれない。
相変わらずの薄っぺらい笑顔で「そらよかった」って。
ちっとも良くないのに。



「なあ、手え握ってもええ?」


『……ちょっとだけね』


「ぎゅーってしてもええ?」


『……一瞬ね』



暑い。
何を考えてるんだ、この男は。
満足げに手を握ったり抱きついてきたり。
いまさらなことだからもう慣れたけど、でも気温とか気温とか気温とか、いろいろ考えて欲しいものだ。



「なあ、」


『今度は何?』


「……ちゅーしよっか」


『……一瞬ねー……って。えぇ!?』


「何慌てとるん? 今ええ、って言うたよな?」



確信犯だ。
にやにやと笑う志摩に結局あたしは勝てないままだ。
どんなに逃げてもどんなに避けても結局は志摩に捕まえられる。
だけど毎回勝負を挑みたくなるのは何故だろう。



『あたし嫌だよ、嫌だからね!? このくそ暑いのにキスとか何考えてるの!?』


「暑くなかったらええのん?」


『そういう問題じゃないけど!』


「ちゅーするの好きなくせにい、」


『好きじゃないってもお! ――――ぅうわ!』



あたしに向かって伸ばされた志摩の手をぺしんと払うと今度は強制的に腕を掴まれた。
べたなパターンでは歩けどそのまま腕を引かれて、志摩の腕の中に納まる羽目になる。



「……なあ、ええやろ?」



耳元で囁く志摩の甘い声に結局あたしは了解してしまうのだから文句は言えない。
小さく首を縦に振ると、迫ってくる志摩の顔。反射的に目硬く閉じて、これから来る甘い衝撃に備えた。




――――ちゅー、





『――……ぅう、あ!』




唇に来る感触を期待していなかったといえば嘘になるけど、志摩が口付けた場所が唇じゃないことに驚きつつ、短く悲鳴めいた声をあげる。
ふと感触をたどって視線を下へとさげていくと、鎖骨に赤い赤い花が鮮やかに咲いていた。
痛いほどにあたしは志摩のものなんだと主張する。



『志摩!』


「別に口にするなんて言うてへんもん!」


『服着てもばれるじゃん!』


「悪い虫が付かんようにな?」


『もう付いてるし!』


「あはは! 堪忍なあ?」



余裕ぶっかまして笑う志摩に結局私は反論できない。惚れた弱みって言う奴だろうか。
いつも志摩が上手に居る気がして、ちょっと悔しい。



「ご馳走様」


『志摩ぁぁあ!』




今に見てろ、次こそ負けないんだからっ
余裕に満ちたその顔を、あたしの手で壊してみせる!












――――だからそれまで、いや。それからもずっと傍にいてよね、
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