D.Gray-man
□神ユキ短編集
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不器用なパパ
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「ほらぁ、ユウ!見てみて!」
「そー騒ぐな。泣いたらどーすんだよ」
「泣かないから大丈夫よ」
ニッコリと笑う女性の腕に眠る赤ん坊。
女性の隣で腕を組んで無表情で座る男性。
女性は男性の方に赤ん坊を差し出した。
「……は?何やらせる気だよ、ユキ」
「抱いてあげて。父親(パパ)なんだから」
「馬鹿言うんじゃねえよ!俺が抱けるワケねえじゃねえか」
「私を抱いたクセに何言ってんのよ」
女性、神田ユキは再びニッコリと笑って赤ん坊を差し出した。
キッと睨みつける男性、神田ユウ。
しかしユキに睨み返されて神田は黙り込む。
ニッコリと笑うが冷たい心を持つユキ。
「さ、抱いて」
「…分かったよ」
「有難う。ユーくん」
「それで呼ぶな」
仕方なく赤ん坊を受け取る。
赤ん坊はスヤスヤと眠っていた。
しかしその手は震えていた。
「ぁ、ユウ…手ぇ震えてるよ?」
「うるせえ!下に手ぇ出しとけ!」
「はいはい」
ユキは神田の言う通りに手を出していた。
この人の言葉は本当になりそうな予感がしたからだった。
落とされたら困る。
「初めて抱くの?赤ちゃん」
「当たり前だろ!誰の子を抱くんだよ」
「アレンの所(とこ)とかさぁ……レナの所(とこ)はちょっと大きいし、ミランダの所はもうすぐだっけ?」
「モヤシの名前出すんじゃねえ」
「嫉妬してるぅ」
神田は顔を紅くさせる。
そんな顔を見てユキはハハハ、と笑った。
神田はベビーベッドに赤ん坊を乗せる。
「ユイ、そこに寝てろ」
「ぁ…もう下ろした」
「お前に愛を与えようと思ってな」
「バ……ッ」
神田はフッと笑った。
そしてベッドに座るユキの上に乗る。
確実にユキは焦っていた。
「待って!まだユイ産んでから3日しか経ってないし……っ」
「俺がいれなきゃいいんだろうが」
「馬鹿!そんな事堂々と言うなぁ!」
「恥ずかしがんなって。可愛いな、ユキ」
「ユウの馬鹿ぁ!どうして急にそうなるのぉっ!?」
結局、額にキスしただけで終わってしまった。
ユキが恥ずかしがって布団に潜り込んでしまってからだ。
こう言う時にだけ性格が変わる神田。
「……全く」
「ふぇっ、ふぇーんっっ!」
「おい…っ、おい!ユキ!ユイ泣いてんぞ?」
「ユウ……宜しく」
「待て!ユキ!」
拗ねてしまったのかユキは布団から出てこない。
ユイは泣いてしまっている。
神田は慌てていた。
何とかユイを抱き上げる。
「ほら…ユイ、泣き止め」
「うぇぇぇん!うぇぇぇんっ!」
「泣き止めよ…ユイ」
必死に言葉をかけるがユイは泣き止まない。
寧ろ酷くなっていた。
神田も神田でかなり慌てていて、あまり対処できていない。
何せ信頼できるユキが拗ねてしまっているからだ。
「なぁに?愛娘も泣き止ませられないの?」
「何でお前が来てんだよ!」
すると声をかけてきた女性。
女性の姿を見て神田は余計にイラつかせる。
「抱き方がまずダメよ。ユキもこんな風に抱いてるの?」
「うるせえ!レナは黙ってろ」
「震えてるよ、手が。もっと優しく抱いてあげないと」
神田の手を掴み、移動させる。
しっかりとした抱き方に変えていた。
神田はレナの方を見ていた。
レナはニッコリと微笑む。
親として先輩であるだけあってアドバイスはかなり的確だった。
「この形を毎日100回やんな。そうすりゃ嫌でも覚えるよ」
「は?俺にやれっつってんのか?」
「当たり前でしょ。エイトにもやらせたよ。アレンは必要なかったけどラビは必要かなぁ〜」
レナはエヘヘ、と笑う。
この腕、中々と疲れる。
コレを毎日続けろと鬼教官は言っているのだ。
神田は呆れていた。
「分かったよ、やりゃいいんだろ」
「ほら、ちょっと動かしてたらユイちゃん寝てる」
「マジじゃねえかよ……」
「まっ、毎日やんなよ、ユウ!」
「その名を呼ぶんじゃねえ!」
嬉しそうに笑顔を見せて子供と手を繋いで帰るレナ。
次の日から毎日、謎の格好をする神田の姿が目撃されたとか。
→あとがき