D.Gray-man

□神ユキ短編集
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幼馴染







「ユウ!ユウってば!」
「うるせえ、黙ってろ」
「なぁんでよ!ユウはいっつもそうじゃない!」


2人の目の前には機械が飛んでいた。
……アクマ。
アクマはこちらへと弾を飛ばしてきた。


「ユキ!」


神田が前に飛び出し、ユキの前に立つ。
そして弾を何発も食らっていた。


ドサッ


「ユウ!」


ユキはユウの側に駆け寄る。
ユウの体には星が浮かぶ。
しかしその星はすぐに引いて消えていった。
ユウの肩には痣のようなのが出来ていた。


「……ユウ?」
(六幻 抜刀!)

「へへへ…エクソシストか?」
「何だよ、それ」


手に握るもの。
イノセンスによる武器、対アクマ武器であった。
しかし原型のままの形なのでかなり肉体には負担をかける。
今にも倒れそうな雰囲気がしていた。


「テメェを倒してやる」
「ユウ!」


一発であった。
刀を左右に振る。
刀から何かが飛び出し、アクマに直撃した。
アクマは爆発して消えた。


「大丈夫か…?ユキ」
「ユウ!」
「やぁ、こんにちは。ユウ君……かな?」
「誰だ、テメェ」
「ティエドール、エクソシストと言う仕事をしているよ」


目の前に現れたティエドール。
神田は思い切り睨みつけた。
男性は両手を上げ、神田に近付いてきた。


「君は神に魅入られた人だよ」
「何言ってんだよ、爺さん」
「君はさっき、その武器でアクマを倒したね」
「あれアクマって言うの?」


2人の会話にユキが加わってくる。
確かに神田は先程、アクマを倒した。
自分の力で。


「アクマと言うのが世界中にいるんだ。それを倒すのが選ばれた人間、エクソシスト」
「江戸だけじゃねえのか?」
「総本部がイギリスにあるんだ」
「ユウ!ヒーローになれんじゃん!行ってきなよ?」


ユキは神田に向かって笑いかけた。
ユキの言葉が神田を決心させた。
神田はティエドールとともに江戸を去ってしまった。





「ユキ、ユキ!」
「なぁにー?」
「こっち来て!」
「はぁぃ」


あれから8年が経過した。
ユキは綺麗な女性となっていた。
毎日、家の農作業の手伝いをしていた。

ふと、空に浮かぶ何かを見つけた。


「……アクマ?」


つい2年前の凄まじい戦いを思い出した。
江戸に大量のアクマが現れた事に。
家族が皆殺された。
しかしティエドールの言葉を忘れなかったのだ。


『家族が死んでも皆がいる。皆がいれば強く生きる事が出来る』


その言葉を信じ、毎日暮らしてきた。
千年伯爵にも会ってしまった。
しかしあの言葉を思い出し、断ったのだ。
ハッキリと、私の心に家族がいます、と断る事が出来た。


「優子さん!隠れて!」
「どうしたの?ユキ」
「早く!」


無理やり家に押し込める。
確かにあの姿、忘れていなかった。
その時、ザーッと空中を滑る男の姿があった。


(六幻 抜刀!)


見覚えのある刀。
そして後ろ姿。
ユキは思わず名前を叫んでしまった。


「ユウ!!」


一瞬だけ、男は振り返った。
やっぱり何年経っても面影は変わらなかった。
目の前のアクマを倒してから神田はユキの前に移動した。


「危ない、退いてろ」
「ユウ……」


振り返るとそこにはアクマが大量にいた。
一斉に弾丸を放ってくる。
ユキは思わず目を瞑った。


「馬鹿……何やってるんだよ」
「ユウ!」
「これぐらいじゃ死なねえよ……っつうか死んでたまるか」


神田はユキに向かってうっすらと笑みを見せた。
フルフルとユキは震えていた。
そして涙を零す。

多くの弾丸を受けすぎて、神田は地面に倒れ込んでいた。


「今度は……私がユウを守るから」
「馬鹿言ってんじゃねえ!お前があの弾丸(たま)食らうと死ぬんだぞ!?」
「ユウを守って死ぬなら…怖くない」


何度も弾丸がこちらに向かって飛んでくる。
ユキは神田の前に立った。
そして一筋の涙を零す。


「……あれ?私…どうなっちゃってるの?」


あんなに弾丸を受けたのに生きてる、とユキは呟いた。
彼女の周りにはキラキラと光る物質が輝いていた。
神田の手に、その光る原因となる原石が握られていた。


「イノセンスが……ユキに反応している」


先程回収してきた、イノセンスがユキに反応していたのだ。
フワッとユキの腕に巻きつくイノセンス。

そして1つの道具を作り上げた。


「筆……?」
「ユキの対アクマ武器は筆かよ……」


手に乗った武器に目を丸くするユキ。
書道の時、文字を書く時に使用する筆であった。

神田ははぁ、と溜息を吐いた。
アクマがまた、弾丸を放ってくる。


「何っ!?手が勝手に……」


ユキの手が自然と動いていた。
筆は弾丸と自分の間に『壁』と言う字を描いた。
途端に文字が広がり、ユキの前に壁となる。
アクマの弾丸は全てそこで止まり、下に落ちていった。


「ユキ……お前……」


ユキは続いて『切』と宙に描く。
するとその文字が回転し始めた。
アクマに向かってぶつかっていった。
此処いた全てのアクマの身体をその文字は2つに切り、が爆発を起こす。


「ユウ!」
「ユキ…お前…適合者だったのか…?」
「何だか不思議な力が出てね…ぁ、そうだ!」


ユキは何かを思いついたらしく、筆を出した。
そして神田の上に『癒』と言う字を描いた。
みるみるうちに神田の傷は癒えていく。
それには神田も唖然としていた。


「お前の武器…最強じゃねえ?」
「そう……かな……」

「おい!ユキ!」


真横にぶっ倒れるユキ。
神田はそれを地面スレスレで支えた。
再び、溜息を吐いた。
そしてユキ抱き上げる。
この人を教団まで連れて行かなければいけない。
話は一度、自分の時に聞いているから分かっているだろう。
自分の運命を。


「……ったく、無理しやがって……」
「こっちは終わりましたよ……って神田ぁ!?……その女性はいったい……
「……テメェには関係ねえんだよ、モヤシ!」
「言ってくれたっていいじゃないですか!もしかして…彼女ですか?」
「馬鹿野郎!ユキはただの幼馴染だよ!」
「ユキって言うんですか、彼女」


しまった、と言う顔をし、舌打ちをする神田。
言わなくていい、余計な事をアレンに言ってしまった。
誤魔化す事はもう出来ない。


「イノセンスの適合者だ。さっき回収した奴の」
「ぇ?本当ですか?」
「だから連れてくんだよ」


神田がユキを抱え直す。
アレンはその様子を見て唖然としていた。
問題は神田の抱き方だ。
それはかなり気になっていた。


「神田……お姫様抱っこするんですか?」
「……何か文句あんのか?」
「いえ、ありませんよ!」
「早く戻んぞ。早く対アクマ武器にしてもらわねえとユキの体に負担がかかる」
「分かりましたよ」


リナリーでさえしなかった神田が……、とアレンは不思議そうな顔をして思っていた。
そしてやはり思う事は1つ。

神田……ユキさんの事……好きなんですかね。

神田は慌てて教団に向かっていった。
今までにこんなスピードで戻る神田をアレンは見た事がなかった。
よっぽどユキの事が心配なのだろう。

教団に戻るとユキはすぐにコムイの元へ運ばれた。
神田は少し嫌そうな顔をしていたが。


「ユウッ!」
「大丈夫か?ユキ」
「うん…大丈夫」
「君の対アクマ武器は装備型だね。神田君が教官でいいかな?」
「俺じゃねえ奴は許さねえ」
「そう言う事らしいから、宜しくね」
「ぁ……はい」


これから、エクソシストとしての毎日を送る事になる。
教育係は神田となった。
神田もそれで納得していて、ユキもすぐに納得していた。
本当の師匠はやはりティエドールとなった。





「筆?」
「うん。日本の文字書くときに使う奴ね」
「へぇ、凄いわね」


ユキはリナリーと仲良くなっていた。
最初は片言しか話せなかった英語だが、神田とリナリーのおかげですぐに話せるようになっていた。
リナリーはユキのイノセンス、筆を見ていた。
かなり珍しい武器である。
武器らしい形をしていない。


「で、神田とはどんな関係?」
「えっとね、ユウがこの前……」


リナリーは気になっていた事を問いかける。
ユキは嬉しそうに答える。

これはつい3日前の事だ。





「……結婚するか、ユキ」
「……へっ!?結婚?」
「物心ついた時から付き合ってたようなもんだろ?経験もしちまってるし……」
「いいの?私なんかで。リナリーちゃんだっけ?あの子可愛いし……」
「リナリーはアレンなんだよ」
「ぁ…そうなんだ」


再会してから僅か3日。
3日で神田にプロポーズされてしまった。
確かに物心ついた頃から2人は一緒にいた。
仲良かった訳だから付き合っているも同然だった。


「俺にはお前しか考えられない」
「有難う、ユウ。私を選んでくれて」
「あぁ……」


ユキはギュッとユウに抱き付いた。
少々照れながらも神田も腕をユキの背中に回した。
2人が結婚を決めた瞬間であった。





「へぇ…あの神田がそんな言葉を言うなんてねぇ」
「すっごい嬉しかったの。ずっとユウと会いたいって思ってたし……」
「エクソシストになれて良かった?多分大変な事ばっかだと思うけど……」
「良かったよ。ユウと同じ場所で働けるんだし、皆とも一緒にすごせるから」


嬉しそうに言うユキ。
つい、リナリーも嬉しくなる。
幸せな人を見るとそうなってしまうのが人、と言う生き物だ。


「大切な人がホームにいるんだと思うと生きなくちゃ、って思えるよね」
「うん。頑張らなくちゃって思うもん」
「そうそう」


ハハハ、と笑い合う。
大切な人がいれば余計に生きなくちゃいけない、と思える。
そして数少ないエクソシストの女だからこそ、本音で話せる。


「ぁ、レナ帰ってきたみたいだから私達も行こっか」
「……レナ?」
「エイトが駆けてったからね。数少ない女のエクソシストよ」
「うん、行こ!」


一緒に走り出す。
もう1人のエクソシストの仲間の所に。



→あとがき




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