BLEACH

□一織短編集
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「ちっ、生まれちまったのかよ」
「アタシだって産みたくなかったさ。だけど出来ちまったんだからしょうがねえだろ」


恵まれなかった子供=私。
お母さんも、お父さんも、気付けば私の事を叩いてた。
泣いたら、泣き止むまでずっと。
だからいつのまにか、叩かれても全く泣かなくなっていた。





BIRTHDAY





「お兄ちゃん?」
「織姫、出かけようか」


お母さんもお父さんもいなかった。お母さんは何処かの彼とデート。
お父さんは何処かでパチンコ。お兄ちゃんと私、2人だけだった。


「何処に行くの!?」
「ちょっとした所」


ちょっとした所、って言う割にはお兄ちゃんの荷物は多かった。大きめなバッグを肩からかけていた。
お兄ちゃんは15歳年上。先日、高校を卒業してきたと言っていた。


「私ね、あのぬいぐるみさんがほしいの」
「買ってあげようか?織姫」
「ううん。だってね、買うとお母さん怒るもん。また無駄なもん買って、って言って叩くもん」
「今日は買ってあげるよ」


私が新しいモノを買ってくる。
そうすると決まってお母さんが無駄なもんを買って、と言って何度も頭を叩いてきた。
それが嫌でいつの間にか、欲しい物があってもお兄ちゃんにしか言わなくなっていた。
お兄ちゃんに言っても、買うのはやめていた。
お兄ちゃんもその事を分かってて、買うのはやめていた。
だけど、今日のお兄ちゃんはその熊のぬいぐるみを買ってくれた。


「有難う、お兄ちゃん」
「どう致しまして、織姫」


すっごい気に入った。
だからずっと、外を歩くときはそのぬいぐるみと一緒だった。
お兄ちゃんと一緒に歩いていく。

いつも見たことの無い光景が広がっていた。
こんなに遠くまで、歩いた事はない。
お母さんが遅いと怒るから。
お母さんが居ない時に出かけて、帰ってきた時にお母さんがいると凄い怒られた。
お兄ちゃんが殴られているのを何度も見てきた。
だから怖くて、出かけられなかった。


「お兄ちゃん、お母さんに怒られちゃうよ」
「いいんだよ、織姫」
「…え?」
「今日から、此処が俺達の住まいだよ」


目には綺麗な真っ白なアパートが映っていた。
2階建ての小さな、小さなアパート。
此処が、私の家?


「此処が、新しい家なの?」
「そうだよ、織姫に気に入ってもらえるように、俺が選んだんだ」


お兄ちゃんはニッコリと笑って言った。
お兄ちゃんが気に入るように、って選んでくれた家。
中に入ると、ちょっとした家具が置いてあって、布団が2つ、並べて敷いてあった。


「お母さんとは離れて、此処で2人で暮らすよ」
「本当っ!?」
「あぁ、本当さ」


嬉しくてしょうがなかった。
お兄ちゃんと2人で暮らせる。
そして何より…お母さんから離れられる。
それが嬉しくて。


「その髪、気に入らない」


中学校に入ってすぐ、髪の毛をバッサリ切られた。
泣いた。
短い所に揃えて、何とかお兄ちゃんは誤魔化した。
でも心に出来た傷は本当に深くて、初めて会う人はどうしても怖くなってた。


お兄ちゃんが死んだ。


「…なんで私、生きてるんだろう」


お兄ちゃんが居なくなった今、生きてる意味が無くなった。
誰も私のことを気にかけてくれる人はいない。
生きているのが嫌になった。
そんな時に現れたのが、たつきちゃん。


「弱いままじゃ兄さんに顔が見せられないじゃん、アンタ」
「……たつきちゃん?」
「アタシが、アンタを強くしてあげる」
「……有難う」


涙が出た。
今までのとは違って、嬉しくて。
それからたつきちゃんは私といつも一緒に居てくれた。


「……今日、井上の誕生日なんだろ?」
「…でもね、私、あんまり誕生日って意識してないんだ」
「そうなのか?」
「だってこの世に生まれてきた事が最初の後悔だもん。お父さんもお母さんも、私が生まれる事を望んでなかった」
「でも、兄貴は喜んだんじゃないのか?」
「お兄ちゃんは喜んでくれたけど、死んじゃってからは余計に……」


黒崎君と話すとすっごくドキドキした。自分でも、恋してるんだ、と分かった。
不思議と、次々と言葉が浮かんでくる。
でも、その言葉はどんどん自分も、そして黒崎君の気持ちも暗くしているような気がした。


「俺はさ、井上が生まれてきてくれてよかったと思うんだけど」
「え?」
「…何っつうかさ、井上のおかげで俺は成長できたんだから」
「違うよ!私だって黒崎君に凄いお世話になったもん!」
「井上が居なかったら俺は、今の俺じゃなかった」


黒崎君は顔を赤くした。
だから、私も顔が赤くなってしまう。
何か恥ずかしくなってしまって。

真っ暗な海の中に私がいて、黒崎君は私を照らしてくれる光。
光が海の中に降り注いできて、海には暗さがなくなっていく。


「お前のおかげで、今の俺は居る。…有難う」
「黒崎君にお礼を言われる筋合いなんて私にないよ!」
「井上のおかげで…俺は戦う力を身に付けられた」
「私も…黒崎君のおかげで戦えるようになったのですぞ?」


黒崎君は私の手の中に小さな袋を置いた。
そして馬のような速さで走っていってしまった。
私の手の中に残る、小さな袋。


「……プレゼントでいいのかな?」


少しずつ、袋を開いていく。
そして目に入る、シルバーアクセサリー。


「わぁ…六花だぁぁぁっ」


思わず見入ってしまった。
ヘアピンと同じの六花。
嬉しくて握り締めた。


「有難う、黒崎君」


私はもっと、もっと、黒崎君の事が大好きになってしまいました!



―――――――――――

もう一つの織姫誕生日。
織姫の辛い過去をちょっと想像してみました。
昊さんがよく分かりません。
なので適当。
何だか本当に可哀相です。
泣いたら泣きやむまで殴り続けるとか……
なのでこっちの織姫はあんまり自分の誕生日が好きではないです。
だけど一護のおかげで好きになれた……っていった感じの小説です。
そして付き合う前のお話。




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2007年9月3日




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