D.Gray-man

□頂き物
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「微笑んで、手を伸ばして」







「星が綺麗ですね」

夜空を見上げて、アレンくんはにこやかに微笑み、頭上高く瞬く星に手を伸ばした。
わたしもつられるように、星空を見上げる。暗闇に光り輝く、星、星、星。眩し過ぎて、思わず目をそらしてしまった。それでも尚、空を見上げているアレンくんを見詰めてしまう。
こういうときのアレンくんって、なんか好き。すごく、すごく優しそう。AKUMAと戦っているときの、頼れるアレンくんも好きだけど。
―――やっぱり、平和な世界のアレンくんの方が好き。
あの微笑が、あの手が、あんなに高い空の星なんかじゃなく、この地面にアレンくんと一緒に立っている、わたしに向けられたものだったのなら良かったのに。
手さえ届かない星に見下ろされ、馬鹿にされたような妙な気分になって、わたしは顔を伏せてしまった。

「……? どうしたんですか、リナリー」

心配そうなアレンくんの太い声が、わたしの耳をくすぐった。
慌てて顔を上げると、アレンくんが星からきっぱりと目を反らして、わたしを見ていた。
わたしを、わたしだけを、しっかりと。

「なっ、なんでもないの」

顔を左右にぶんぶんと振ってみせる。多分、顔が林檎よりも夕焼け空よりも赤かったと思う。もう、嫌ぁー! 恥ずかし過ぎるー!
視線を何処へ送ればいいのか分からなくて、やっぱり俯いてしまう。
きっと、アレンくんは今ごろ首を傾げてる。大体分かる。だって、友だちだから。仲間だから。――大好きだから。

「リナリー」

わたしの頭のてっぺん――つまり、伏せている顔、もとい頭の一番アレンくんに近いところの風が、ふわりと優しく揺らいだ。
わたしの名前を呼ぶ、柔らかい声。さっき、星に贈った声なんかよりも、何倍も何十倍も柔らかく、心の其処まで染み込む声。
え、と思った。思わず顔を上げる。
目の前に、頑丈そうな、頼れそうな手があった。
わたしの視線が、その手から、腕、肩、そして顔へと映る。

「―――アレン……くん?」
「顔が真っ赤ですよ。レベル2のAKUMAもいましたし、さっきの戦いで疲れたんじゃないですか」
「そっ、そんなことないよ! 全然大丈夫…」
「とにかく!」

アレンくんがぴたりと言葉を止めた。
アレンくんのにっこりと微笑んだ、優しい笑み。その裏側には、どんな感情が眠っているのだろう。分からない。けれど、知りたい。
だけど、わたしはわたしのこともよくわからない。だって、今度は、全然赤くならなかったから。
ゆっくりと口を開くアレンくんは、わたしの瞳の中で、暗闇の中の星よりも輝いていた。

「僕の手に、掴まってください。可愛い子を見捨てて行くわけには、いきませんからね」

―――大好きです、アレンくん。
だから、にっこり微笑んで、頼れる手を伸ばしてください。―――わたしに。



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