BRAVE10

□高嶺の華
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「八与、どこですか?」

六郎兄様が私を呼ぶ。

「六郎兄様! どうなさいましたか?」

パタパタと走り六郎兄様の方に走っていく。

「ああ、ここにいらしたのですね。 今日は七隈が来るそうですよ」
「え! 七隈兄様が!? わぁ! 久々ですね!」

ピョンピョン跳ねて喜ぶと苦笑混じりに笑う。

「あ! まだ仕事が残っていました! でわ、私はこれで!」

六郎兄様に会釈し歩き出す。


よし、いつもの私に戻るわよ。
パチンと頬叩く。

「八与よ、おらぬか?」
「はっ、ここに。 どうなさりました?」

幸村様の前で平伏する。

「うぬ、今日は七隈が来ると言うことだ」
「はっ、存じ上げております。 信幸様もいらっしゃるんですよね? でしたら、今宵は宴ですか?」

くっと首を傾げるとああと頷く幸村様。
そしてまた平伏し、畏まりました、と言う。

「失礼します」

スススと襖を開け、部屋を出ていこうとすると幸村様に呼び止められた。

「なんでしょうか?」
「今宵は宴。 ついては、八与にこの着物を着て舞ってもらいたくてな」
「いえ、私などにそのようなお品物…、勿体無き…」

私の目の前には華やかな桃色の着物。
美しすぎて私が似合う着物ではなかった。

「しかし、何故私が? 舞いでしたら、伊佐那海がいらっしゃるではありませんか」

また首を傾げる。
そう言うと目をカッと見開いた。

「何を言う!? 伊佐那海の舞いはもう見慣れておる故、八与の舞いを久々にみたいのじゃ!」
「いえ! 私の舞いなど恥ずかしくてお見せできません!」

負けじと言い返すがまた幸村様が口を開いた。

「何を言う。 六郎も舞うのじゃ、久方ぶりに兄妹の舞いを見てみたいのじゃ」
「ろ、六郎兄様が!?」
「ああ、因みに七隈もな」
「七隈兄様も!?」

目を見開いて驚くと幸村様はニィッと笑った。

あ、これはヤバい…ッ! 私が兄様たちのことになると断れないことを知っている。

「あ、あの、その……」

慌て、混乱していると襖が開いた。

「幸村様…、八与。 どうしたのですか?」
「六郎兄様!」

襖が開いた先にいたのは六郎兄様だった。

「いえ、幸村様に呼ばれて来たら…」

下を俯きながら、訳を途中まで話す。

「ああ、幸村様に呼ばれて来たのですね。 幸村様、八与になんのようで?」

さすが六郎兄様。 こんな私の説明でだいたい察してくれたらしい。

「今宵の宴、六郎、お主舞うであろう?」
「はい」
「それで海野兄妹に舞わせようと思うてな。 この着物を渡そうとしたのだが、断固と受け取らなくてな」
「左様ですか。 八与」


幸村様の話を聞き終わったあと、私の方を向き直す。

「はい」
「八与、着てください」
「……え?」

思いもよらない言葉に拍子抜けな声を出す。

「お願いします」
「……はい…」


六郎兄様の言葉には断れない。
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