バスケ部

□一期一会の想い
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《……きつい……》

毎日のことではあるが、このぎゅうぎゅうの空間に慣れる気がしないのはきっと私だけではないはずだ。

《……本数増やせってのっ!》

心の中で悪態をつきながら端の棒に思い切り体が押し付けられる。

《ちょっ! 痛い痛い痛い!!》

どんなに心の中で叫んでも抗議しても周りにわかってもらえるはずなどない。

《っ……う……痛い……》

我慢の限界を超えそうになった時、丁度駅に着き、周りの人が一気に下りていった。

《と、とりあえず、助かった……》

ホッとしたのもつかの間、再び人がなだれ込んでくる。

《うっ……。また人に押し潰されるのか……》

覚悟を決め、目を閉じた。

しかし、いつまで経っても押し潰される感じはしない。

《…………。……あれ?》

不思議に思い、目を開けると目の前に一人の男の子が立っていた。

しかもまるで私を人の波から庇うようにしている。

「……あ、あの……?」

戸惑いながらもその人を見上げる。

「……何ですか?」

決して背が高いとは言えないが、綺麗な水色の髪と瞳が彼を引き立てている。

「い、いえ……」

「そうですか」

彼は涼しい顔で言ったがその後、多少顔を歪めた。

カーブに差し掛かり、人の波が押し寄せてきたようだ。

彼は人波からこちらを守っている為、かなり辛そうだった。

「……」

気まずい雰囲気の中、ようやく駅につき、人混みが落ち着くと同時に彼はふっと離れていく。

思わず見失いそうになる彼の手を掴む。

「待って!」

思ったよりも大きな声が出てしまい、自分でも驚いてしまう。

「……何ですか?」

彼の問いかけで我に返り、手を離した。

「その……庇ってくれてどうもありがとう。お陰様で苦しくなかった」

笑顔でそう礼を言うと彼もフッと微笑んだ。

「それなら良かったです」

彼はそれだけ言うと人混みに消えていってしまった。

「あ……」

呼び止める暇もなく、立ち去ってしまった彼に心の中で再び礼を言う。

《本当にありがとう》

毎日変わらない日常の中で、少し嬉しい特別な朝になった。







(おい、黒子。何へばってんだよ? これから練習試合だろ?)
(……朝から満員電車で体力を使ってしまい、力が残ってないんです……)
(はぁ!? お前、どんだけ貧弱なんだよ!)







――もう、会うことがないであろう貴女への一目惚れは僕だけの秘密……














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