バレー部

□今日の日
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誕生日。

『おめでとう』

その言葉を言われるだけで嬉しくなる。






「西谷、誕生日なんだってな、おめでと!」

「サンキュー!」

今朝から何度めのおめでとうの言葉だろうか。

《嬉しいもんだな》

浮き足だって席に着くと隣にはいつもと変わらないクラスメート。

こちらに気がついた彼女が頬杖をつきながら笑顔を見せる。

「西谷おめでと」

「おぅ」

笑顔を返すと彼女はホッとしたような顔をした。

「どうした?」

「今年も西谷が小さいままでよかった」

「あぁ!?」

相変わらずの軽口だが少し気にしていることを言われ反応する。

「私は今年、西谷の身長抜かすつもりだから」

笑顔で宣戦布告された。

《笑顔は可愛いんだけどなー》

いつも無愛想でもったいないと思っている。

笑顔を見せてくれるようになったのも数ヵ月前のことだ。

《つーか、俺の身長を抜かす……こいつが?》

彼女を見上げることを想像してみた。

「ぜってぇ、そんなことさせねぇからな!」

イラッとして彼女のつむじを押す。

「うぎゃ!? つむじ押すなー!」

慌ててつむじを押さえ、恨めしそうにこちらを見てきた。

「大体、154しかないやつに抜かされる気しねーぜ」

鼻で笑いながらそう言うと彼女はむっと頬を膨らませる。

「わ、わかんないじゃん! 一気に10センチとか伸びるかもじゃん!」

「ないだろ」

即否定した。

「頑張るもん」

「夜更かししてる奴は伸びねぇって」

眠たそうに欠伸をしている彼女を思い出しながら言った。

「早く寝てる西谷だって伸びてな――」

「言うんじゃねぇ!」

彼女が言いかけた言葉を強引に止める。

不満げな彼女が『あ』と口を開いた。

「プレゼント持ってきてない」

「別にいらねぇよ」

そもそも誕生日を教えた気がしない。

「……ねぇ、西谷?」

「んー?」

伸びをしながらあいまいな返事をした。

「私、西谷のこと好きかもしれない」

「おー……。? はぁ!?」

言葉の理解に少し時間がかかった。

【好きかもしれない】彼女の言葉が頭の中をぐるぐるする。

「だから私と――」

こちらをまっすぐと見つめる彼女から目が離せない。















『付き合ってくれない?』
















――誕生日。

その1歩を踏み出したのは……彼女。












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