隊士達との日々

□小春日和
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最近、寒くなってきたと思う。

あれほど綺麗だった紅葉も散り、寒そうな
枝木だけになっていた。

しかし、今日はポカポカと陽射しが暖かい。

「もう、冬なんだ……」

庭の隅に腰掛けながらナナシは呟いた。

「冬は嫌いか?」

「!」

横を見てみるといつの間にか斎藤が立っていた。

ナナシの反応を見て彼はフッと微笑む。
「どうかしたのか?」

「別に……少しびっくりしただけ」

不機嫌そうにそう答えると彼は、そうか、と小さく笑った。

「何か用?」

「いや、特に用事はない。お前が冬空の下、薄着でこんな所に居たのでな」

「……心配してくれたの?」

ナナシが問い掛けると彼はそっぽを向いてしまった。

「大丈夫だよ。今日はポカポカ陽気だし、風邪は引きそうにないから」

にっこりと笑って空を見上げるナナシを見た彼にも笑みがこぼれる。

「……小春日和だな」

「ぷはっ」

斎藤の呟きを聞いたナナシは思わず吹き出してしまった。

「な、何が可笑しい」

「だって、一君が、小春日和、なんて可愛い単語言うと思わなかったから」

「……」

笑いかける彼女を見て彼は恥ずかしそうに下を向いてしまった。

「一君も座ったら?」

ナナシは自分の隣に座るように促す。

「……ああ」

彼はナナシの隣に腰をかけると羽織っていた自分の上着を彼女にかけた。

「?」

「いくら暖かくても風邪を引く時は引く」

「……」

それなら彼も風邪を引いて仕舞うのではないだろうか、自分の部屋に行き、上着を持ってこようか、など考えていたが、自分の考えを言う前に彼は言葉を続ける。

「俺は、風邪等引かぬ。だから気にするな」

普段、無愛想な彼が顔を赤らめて言うととても可愛いかった。

「有り難う」

顔を見て礼を言う。

彼は何も言わなかったが小さく頷いた。

「早く、雪が降るといいね」

「そうだな」

雪が降りそうにもない真っ青な冬空を二人は見上げる。

「雪が降ったら一緒に見ようね」

呟くようにナナシが言った。

「……そうだな」

その呟きに微笑みながら彼は答える。



ポカポカと暖かい日だまりの中、ナナシは眠りはじめた。






「……眠ってしまったか」

彼は自分の肩に頭を乗せ、気持ちよさそうに寝ている彼女を見た。

別に迷惑なわけじゃない。

ただ、少し戸惑って仕舞うのだ。

「……」

ずっと彼女を見ているととても恥ずかしくなってしまうし、少し困ってしまう。

「……」

起こすのも悪い気がするが、それ以前に起こしたくはない、という気持ちも存在している。

肩にかかる僅かな重みも体温も呼吸すら愛おしく感じてしまう。

「……」

「あれ? 一君じゃない。どうしたの、そんな所で――」

突然現れた総司がナナシを見て言葉を止める。

気を使ったのだろうか、と思ったが総司はそんなことする奴ではない。

おそらく彼女を起こす気だ。

そう彼が思っていると総司は早速、彼女の元へ歩み寄る。

「ナナシちゃん。こんな所で寝てると風邪引くよ?」

総司は少し強めに彼女を揺らす。

「ん……?」

可愛いらしい返事と共に彼女が目を覚ました。

同時に肩にかかっていた僅かな重みも無くなってしまう。

「あれ……寝てた?」

目を擦りながらナナシが言った。

「うん。完璧に寝てたよ……一君の肩に寄り掛かりながら」

総司が少し皮肉っぽい言い方をしたのは、おそらく、嫉妬だろう。

「そ、そうだったの……ごめんね、一君……」

本当に申し訳なさそうに言う彼女を見て彼は少し目を伏せた。

「すっごく重たかったってさ」

「そ、そんなことは! ……ある?」

総司の言葉に反論しかけたナナシだったが自信なさそうに彼を見る。

「いや、大丈夫だ。重たいと思ったら起こしている」

むしろ起きてほしくなどなかったくらいだ。

「ありがとう、一君」

彼女ににっこりと笑いかけられると少し照れてしまう。

「気を使わなくたっていいんじゃないの?」

目元が全く笑っていない総司には、きっと気づかれているのだろう。

「一君は気を使ってなんかいない、総司は少し意地が悪い」

頬を膨らませ、怒っている彼女はとても愛らしいが、それより彼には気になることがあった。

《総司、か……》

彼がそんな小さな嫉妬をしているのも知らず、ナナシは総司に問い掛けた。

「それで……総司は何か用?」

「なんかその言い方、傷つくなぁ」

総司はむしろ嬉しそうである。

「何か用があったのではないのか?」

2人の会話を聞いていると少し胸が、むかついてきたので口を挟んだ。

「一君までそういうこと言うの? 酷いなぁ」

総司は口元を微笑ませながらこちらを睨む。

「まぁ、特に用はないんだけどね」

「おい! 総司! 何処に行きやがった!」

鬼の副長と言われる土方の声が聞こえてきた。

「……じゃあまたね、ナナシちゃん」

総司は雛白に笑いかけ、走り去って行った。

「……何あれ?」

「……さあな」

「ねぇ、一君」

「何だ」

「怒ってない?」

彼女は、急に真剣な顔になり、顔を覗き込んできた。

斎藤は少し驚いた顔をする。

「別に怒ってなどいないが……」

「そうかな……?」

ナナシは考えるように首を傾げた。

「でも、さっきと様子が違う」

「……」

そんなことはないと思っていたが、そんなことはあるのかも知れない。

特に怒る理由はないが、考えてみると不機嫌になる理由はあった。

総司の登場だ。

別に総司が嫌いな訳でも仲が悪い訳でもないが、ナナシが絡むと別なのだ。

総司はナナシと話をしていると必ずといっていいほど邪魔をしてくる。

おそらく彼女をそれなりに気にしているのだろう。

そして、不機嫌になる理由がもう一つあった。

「一君?」

一君、と呼ばれることだ。

ナナシは総司や平助のことを総司、平助と呼ぶのに対し自分のことは、いつまでも君付けで呼ぶ。

そんな些細なことが彼を不機嫌にさせる理由であるのだろう。

「……何故なのか……」

つい、口に出してしまった。

気づいた時にはもう遅かった。

彼女は不思議そうに彼を見ている。

「何が?」

「……」

聞いてみるには今しかないと思い、改めて彼女を見る。

「……何故……」

「?」

「何故、俺のことは、【一君】と呼ぶ?」

「え……」

彼女は驚いたように固まっている。

「……何でもない。気にするな」

気まずくなり、席を立とうとすると着物の裾が引っ張られた。

振り返ると彼女が俯きながら裾を掴んでいた。

「どうした?」

「ごめん……なさい」

「……何がだ?」

いきなり謝られ、うろたえていると彼女が顔を上げた。

少し、顔が赤く、瞳も潤んでいるような気がする。

「その……一君を……一君って呼ぶのは……何て言うか……呼び捨てで呼ぶのは少し……恥ずかしいからなんだけど……」

「!」

ナナシは顔を赤らめ、俯く。

「そのことで怒ってたのならごめんなさい」

「……」

「……一君?」

彼は彼女に背中を向けたまま、一歩前へ出た。

「怒っている訳ではない……」

ぼそり、と呟く彼にナナシが近づく。

「えっと……一君……じゃなくて……やっぱり……は、一……の方がいい……?」

「…………いや」

彼が振り返った。

「そのままでいい。……違うな」

一旦間を置き、改めてナナシの顔を見て、彼は微笑みかけた。

「そのままがいい」

「……!」

彼の笑顔を見てナナシも笑顔になった。

その笑顔に見とれていたとは言えず、顔を反らしてしまう。

「そろそろ戻るか……」

彼女ともう少し話をしていたかったが邪魔が入りそうなの気がした。

「そうだね」

反射的に、歩きだそうとするナナシの手を掴んだ。

「あ……」

掴んでしまってからすごく恥ずかしくなり、離そうとしたがその手を彼女が握り返してきた。

「行くか……」

小さく頷く彼女の手をひきながら、二人は屯所へと歩き出した。





少し冷たい風を感じながらゆっくりと











あとがき( ´・ω・)σ



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