隊士達との日々

□恋
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この気持ちを恋と呼ぶのだろうか?







最近、どうも調子がおかしい。

原因はきっとあの子、ナナシだ。

初めて会った時から違和感を感じていたけど、まさか本当に女の子だったなんて思わなかった。

しかも、千鶴や風間達と同じ、【鬼】らしい。

【人は見かけに寄らない】
まさに彼女にピッタリだと思った。

華奢なのに僕等でも難しい二刀流の使い手である。

剣筋もしっかりしていて新選組幹部にも引けをとらない。

《会ったことないんだよね……ああいう子……》

「あれ、総司? 何してるの?」

座ったまま見上げると彼女が立っていた。

「……ナナシちゃん」

「髪濡れたままだし……風邪引くよ?」

彼女は呆れ顔でため息をつく。

「あれ? 心配してくれてるんだ?」

「当たり前でしょ? ほらこれ使って」

そして持っていた手ぬぐいの束の中から一枚を総司に渡した。

「えー……面倒臭いなぁ」

「駄目だよ。ちゃんと乾かしなさい」

子供を叱るような優しい声音だった。

「じゃあナナシちゃんが乾かしてよ」

「甘えたって可愛くないから。ちゃんと乾かしなよ。全く……」

彼女は呆れたようにため息をつき、去って行く。

《行っちゃったか……》

総司も去って行く彼女を見て、深くため息をついた。

空を見上げ、目をつぶる。

少しして誰かがこちらへ駆けて来る足音がした。

「もう! 乾かす気ないでしょ?」

叱るような呆れたようなそんな声。

「ナナシちゃん」

瞼を開けば頬を軽く膨らませた彼女の愛らしい姿が映る。

「ほらちゃんと乾かして」

そう言って総司の髪を少し乱暴に拭き始める。

「痛いってナナシちゃん」

「我慢!」

彼女は強すぎる程の力で髪を拭く。

「……」

総司は黙り込んだ。

「総司? どうしたの? 急に大人しくなって……」

「いや……何か動物になったみたいだなって」

「ふふっ。確かにそうかも」

楽しそうな彼女の笑い声がする。

「総司って何だか猫みたいだもん」

「えー? そう?」

「うん。気まぐれだし、悪戯するし……。あ。ねぇ、【にゃー】って言ってみて」

髪を拭きながら総司の顔を覗き込む。

「!? …………にゃーあ?」

いきなり、彼女の顔が目の前にきたので不自然な間が出来てしまう。

不覚にも動揺してしまったようだ。

「【にゃー】くらいでそんな恥ずかしそうにしなくたって」

楽しそうに笑う彼女を不満そうに総司は見る。

「何?」

「卑怯だよ。ナナシちゃんは」

「へ?」

一瞬のことだった。

立ち上がり、彼女を抱きしめた。

「ちょっ!? 総司!?」

何とか総司から逃れようと身をよじるが総司はますます力を強めてきた。

強く強く、しかし優しく抱きしめる。

体温、匂い、彼女の総てに心が満たされる。

《ああ……そうか……》

僕は彼女のことが好きなのか。

この胸の高まりが愛情。

この泣きたくなるような気持ちが恋。

好きだ。

好きなんだ。

僕はナナシのことが。

「総司、離して」

彼女の声で我に帰った。

「離して」

はっきりと彼女は言い切る。

わかってる。

彼女が僕に振り向かないことくらい。

わかりきってるんだ。

彼女は彼のことを想ってるんだから。

そして彼も彼女のことを……。

わかっているのに希(こいねが)ってしまう。

自分を愛して自分に恋して欲しいと。

《片想いか》

ふっと笑ってしまった。

「……総司?」

心配そうな彼女の声がする。

愛おしくなり、思わず、さらに強く抱きしめる。

「離さない!」

わざとふざけているように見せる。

自分の気持ちを悟られないように。

「総司! 離しなさい! ちょっと心配してあげたのに!」

「えー?」

「もぅ……」

総司の気持ちを知ってか知らずか彼女は暴れるのをやめる。

諦めたように大人しく、総司の腕の中に収まっている。

総司は愛おしそうに彼女を抱きしめる。

《離したくない。離れたくない》

執着、と言うのだろうか。

しかし、今日、今、核心してしまった。

僕は狂おしい程、君を愛しているんだと。

泣きそうになりながらも届かない君への思いを胸に抱き、君を抱きしめた。






大好きだよ、ナナシ。

殺してあげたいくらいに。

そのくらい愛してる。




僕は君に恋しているんだ。











あとがき( *`ω´)σ

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