王子達と日常

□再会
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嶺二と蘭丸の二人は延びてしまったレコーディングの暇を潰していた。

「〜ランランラン〜♪」

「うるせぇぞ! 嶺二! 殴られてぇのか!?」

気持ち良さそうに歌っていた嶺二を蘭丸が一喝した。

「もー……そんなに怒りっぽいと、すぐ、老けちゃうぞぉ」

「あぁ? ガチでシバクぞ」

睨み付ける蘭丸に嶺二は口を尖らせる。

「暴力はんたーい! 全く、あの子のシュミがれいちゃんにはよく、わかりませんっ!」

「は? 何の話だよ」

「あれあれ〜? もしかしてランラン、ぼくの話、気になっちゃう感じぃ?」

わざとらしく嶺二が身を乗り出す。

「チッ。意味わかんねー……ってかどーでもいい。大人しくしてろ」

舌打ちした蘭丸はイヤホンをして音楽を聞き始める。

「えぇ〜。つまんなーい。つまんないよー。ランラーン!」

嶺二が蘭丸にちょっかいを出そうとしたときだった。

「おはようございます! 寿弁当ですっ」

ノックと共に女の子の声が聞こえる。

「あ! バイトちゃん! いらっしゃい、遅かったね!」

嶺二がドアを開けるとそこにはお弁当を持った女の子が立っていた。

「は、はい! す、すみません」

「別に怒ってないよっ。ていうか、緊張し過ぎだよ、バイトちゃん」

「うぅ……すみません……」

「顔赤くしちゃって〜。かっわい〜」

嶺二に頬をつつかれながら顔を真っ赤にする彼女はチラリと蘭丸を見た。

「あ? 何だよ、何か用か?」

「い、いえ……」

声をかけると顔を一層、赤くして俯いてしまった。

「?」

顔をしかめる蘭丸に嶺二は近づいた。

「ランランのファンなんだって」

「は?」

「彼女さ、うちにバイトの面接に来て、ぼくを見た瞬間固まっちゃったんだよ〜。寿嶺二の生家だと知らなかったんだって」

嶺二は楽しそうに笑う。

「じゃ、後、よろしく〜。ぼくは後輩ちゃんの所に行ってくるからね〜。……あ! 後輩ちゃんって言ってもハルハルじゃないよっ。ああ! それと……」

嶺二は蘭丸だけに聞こえるように声をひそめる。

「(……ちゃんと話、した方がいいよ……)」

「……は? どういうことだよ」

「ん? んー……どういうことだろうね? ま、とりあえず、じゃあね〜ん」

「ってめ! おい、待て! 嶺二!」

言いたいことだけ言って、含み笑いのまま手を振り、嶺二は去っていった。

突然のことに彼女は唖然とドアを見つめる。

再び声をかけようとしたときだった。

「あ! えっと、これ、お弁当ですっ! れ、嶺二さんから頼まれてて……そ、それじゃあ……!」

「ちょっと待て」

強引に弁当を渡し、立ち去ろうとする彼女の腕を咄嗟に掴んでしまった。

「!!」

「あ……。すまねぇ」

腕から手を離し、ため息をつく。

「あ、あの……?」

「……弁当」

「え?」

「弁当、2つも食えるわけねーだろ。お前も食ってけよ。メシ、まだだろ?」

ぶっきらぼうに言う蘭丸に彼女は目を丸くしていたが、すぐに笑顔になる。

「はい! ありがとうございますっ」

「……」

嬉しそうに笑う彼女に蘭丸は何ともいえない顔でため息をついた後、テーブルに弁当を置く。

「私、すっごく嬉しいです」

弁当を食べ始めるなり、彼女が呟く。

「……」

無言で弁当を食べ続ける蘭丸の近くに紙コップに注いだお茶を置く。

「……また会えるだなんて思ってなかったから……」

俯き、ぼそりと呟いた言葉に引っ掛かりを覚える。

「……どういうことだ?」

手を止め、彼女を見る。

「……何でもないです。忘れてください」

切なそうに笑う彼女に見覚えがある気がした。

「おまえ……まさか……」

見覚えどころではない。

何故、忘れていたのだろうか。

「……お久し振りです。蘭丸さん」

嬉しそうな切なそうな、複雑な笑顔に思わず、目を反らしてしまう。

「……何で、俺の……許嫁だったお前が、嶺二のとこでバイトしてんだよ」

黒崎家がまだ、大財閥の一つだった頃、決められた婚約者が居た。

それがこいつだった。

最初は嫌だった。

でも、何度か会う内に、こいつとならって幼心に思った。

だが、財閥がなくなり、彼女とも二度と会うことはないと、生きるために忘れようとした。

《それが何で今になって……》

「……出てきちゃったんです」

「……は?」

苦笑いをして彼女は言葉を続ける。

「新しく婚約を強制されて……でも、私には無理で……怖くって……相手の人が……」

その時のことを思い出したのか彼女の肩が微かに震えていた。

「……だから、家出してきちゃったんです」

彼女は精一杯の笑顔を見せる。

「……家を捨てたのか?」

「……捨てた、といいますか、あの人達にとって大切なのは跡取り息子で、娘はいいところに嫁に行かせるための道具なんですよ……。両親から愛情を感じたことは一度もありませんでしたし……何より、出ていくときに止めもしませんでした」

自重気味な笑顔を浮かべる彼女の頭を優しく撫でる。

「蘭……丸さん……?」

「…………無理に笑うなよ。苦しかったら泣け」

微笑み、頭を撫でると彼女の顔が次第に泣き顔になる。

「泣いてもいいんだ。無理すんな……俺の前では……」

「らん、まる、くんっ」

ふわりと抱き締めると彼女はそのまま、嗚咽を漏らす。

《いいんだ……泣いてもいい》

ポンポンと背中をあやすように叩く。

「ずっと、一緒に居てやる。支えてやる。大丈夫だ」

泣きながら何度も頷く彼女を少し強めに抱き締めた。







――好きだ

その言葉はもう少し待ってろ

おまえとの距離をもう少し埋めてから

大切にできる、幸せにできる準備ができるまで



絶対に、もう離したりしない――


















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