王子達と日常

□願い の後の話
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呼び出された理由は何となく察した。

「……  ……」

隣で健やかに眠る彼女の名を声に出さないように口だけ動かしつ呼び、頭を撫でた。

眠りながらも彼女は嬉しそうに微笑む。

「……はぁ……」

思わず出てしまったため息に自分でも半分呆れてしまう。

最初はこんな気持ち知らなかった。

【恋】や【愛】だなんてボクが知るはずのないモノだったはずなのだから。

ショウやナツキ達に出会ってボクは変わったんだと思う。

博士はポクに【わからない】という回路のプログラムをつけた。

だからきっとこの気持ちは【よくわからない】でいいのだろう。

ショウやナツキに恋人が居ると知ったとき、理解が出来なかった。

彼等は真剣にアイドルになりたいと思っていないのだろうと思った。

でも違った。

二人とも彼女が居なければ頑張れないらしく、ショウは彼女と喧嘩しただけでいつもの力が出せなくなり、ナツキは彼女からのメールが来ないだけで落ち込んでいた。

今思えば懐かしい思い出だ。

騒がしかったが楽しかったような気がする。

大切なことをたくさん教えてくれた後輩達は今、アイドルとして活躍している。

この間、ナツキとショウの旅番組がやっていてそれを彼女も楽しそうに視ていた。

《この気持ちを教えてくれたのは彼等だ》

一言で言ってしまえば面倒な気持ちだ。

でもそれ以上に彼女と過ごすことが楽しいと感じる。

《……最初に声をかけてきたのは彼女だったっけ……》

出会った頃の彼女が鮮明に思い出される。

目を輝かせ、頬をほんのり桃色にした彼女が駆け寄ってきて最初に言った言葉。

『こんにちはっ!』

大きな声でそう言った後、我に返ったのか、『い、いや……そうじゃなくて……その……』と口ごもり、何故か謝って走り去っていった。

彼女のことは知っていた。

アイドル声優としてシャイニング事務所が売り出し中のタレントだった。

《あの後、楽屋へ挨拶にも来た……》

楽屋に来たときの彼女はとても恥ずかしそうに先程のことを詫び、ずっと応援していた、会えて嬉しかったと笑顔で言って帰っていった。

それからなのかどうか、わからないが彼女の声が他の誰よりもよく聞こえる気がしてきた。

一目惚れだったのかもしれないと思うがそんなのは誰にもわからない。

《言ったら調子に乗りそうだし》

ちょっと悔しくなって彼女の頬を摘まむ。

相変わらず幸せそうな笑顔を浮かべる彼女にため息がもれる。

「……何でそんなに幸せそうに笑うの?」

ボクは人間じゃないのに。

キミと一緒の未来を歩めないのに。

苦しくて悔しくて拳を握りしめる。

「……さよならなんてしたくない……」

この気持ちを植え付けたのは博士達だ。

なのに何故、彼女を引き離そうとするのか。

理由はわかってる。

彼女のため。

ロボだとバレたら彼女がどうなるか。

それに彼女は悲しむだろう。

《……嫌われるのかな》

自分がロボだと言ったら彼女は軽蔑するだろうか。

「そんなのは……嫌だ」

「……ん……。……藍ちゃん?」

呟いた声で彼女が起きてしまったようだ。

「おはよう。よく寝ていたね」

素っ気なくそう言うと彼女から離れ、パソコンに向かう。

【戻ってきたくないのは何となく理解できるが戻ってこないと彼女にバレてしまう手を使うしかなくなる。すぐにどうこう言うことじゃないんだ。明日は戻ってくるように】

子供に言い聞かせるような言い方のメール文にため息をつく。

「……藍ちゃん、大丈夫?」

彼女はソファーに座り直し、こちらを見る。

「……何が?」

わざと素っ気なく言って昨日のメールを削除した。

「…………ううん。何でもない」

「そ」

何とも言えない罪悪感に駆られながら、立ち上がって部屋を出ていこうとする。

「どこ行くの? 藍ちゃん……」

「……どこ行こうとボクの勝手でしょ? キミには関係ないよ」

「……帰ってきてくれるよね?」

「は……?」

彼女の言葉に思わず振り返ってしまう。

振り返った先の彼女は何とも言えない、悲しそうな笑顔を浮かべている。

「帰ってきてくれるよね? どこかに行っちゃわないよね?」

彼女なりに何かを感じているのだろうか。

ため息をついてからドアの方へ向き直り、そのまま言葉を続ける。

「……行かないよ。ちょっと出てくるだけ。すぐ戻ってくる」

「わかった。いってらっしゃい」

後ろを向いているので彼女の表情はわからないが、きっと笑顔なのだろう。

黙って部屋を出て、ドアに寄りかかった。

《……どこかになんて行かないよ。……ずっとキミのそばに居たい……》

ドアから離れて振り返る。

「必ず帰ってくるよ……だから、待っていて」

ドアに向かってそう言い残し、ラボに向かった。








――戻ってくる

その約束はボクがボク自身に言い聞かせたかったこと













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