王子達と日常

□君次第
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――さあ、君は誰を選ぶ?







「後輩ちゃん!」

駆け足で後ろから走ってきたのは寿嶺二。

「おはようございます、嶺二先輩」

後ろを振り向き、笑顔で挨拶をする。

「うん! おっはよ!」

にっこりと笑ってこちらに向かって両手を開いている嶺二に思わず尋ねる。

「……嶺二先輩、何を?」

「え? 何って、挨拶のハグだよ? ほら、後輩ちゃん! 遠慮してないでカモ〜ン☆ ――って! わっ!?」

嶺二の体が前に倒れてくる。

「きゃっ!」

嶺二とぶつかりそうになった瞬間、体が素早く後ろに引かれた。

「ぐえふっ!」

ビッターンとすごい音で嶺二が床に倒れる。

「邪魔だ、嶺二」

嶺二の後ろに現れたのは黒崎蘭丸だった。

片足を上げてたのか、足を床に着いたところだったようで立ち直していた。

《……もしかしなくても蘭丸先輩、嶺二先輩のこと蹴飛ばしたの?》

そんなことを推理していると頭上から声が聞こえてきた。

「もう、ランマル、気を付けてよね」

見上げると美風藍の顔があった。

どうやら藍に抱き留められているようだった。

「あ? つーか、いつまでその格好してんだ。早く離せよ、藍」

蘭丸が鋭い瞳で藍を睨む。

「何でランマルに指図されなきゃいけないのさ。大体、ランマルがレイジを考えなしに蹴飛ばすからいけないんでしょ? もう少しで彼女に被害が及ぶところだったんだから」

「被害って何!? 少しはぼくの心配もしてよ! 第一、ランランは蹴飛ばすより先に言うことあるでしょ!? っていうかまず、お兄さんに謝りなさいっ! それからアイアイ! いい加減に後輩ちゃんを離してあげなさーい!」

復活した嶺二が蘭丸、藍、それぞれに指を差しながら言う。

「え、えっと、藍先輩、ありがとうございました、もう大丈夫ですから……。蘭丸先輩、おはようございます。あ、あの、嶺二先輩、大丈夫でしたか? 受け止められなくてすみませんでした……」

藍に礼を言って離してもらった後、蘭丸に挨拶をして嶺二に謝った。

「後輩ちゃん……ホントにきみっていい子――って、うわぁ!?」

涙を浮かべながら抱きつこうとした嶺二の顔面に蘭丸の手の甲が当たりそうになる。

「チッ……。すまねーな、嶺二。手が滑った」

ギリギリで避けた嶺二を見て蘭丸が舌打ちをした。

「ランラン、棒読みだよ! 今のわざとでしょ!?」

「煩いよ、レイジ。静かにしたら?」

「アイアイまで、ひどい!」

三人で騒ぎ始めた嶺二、蘭丸、藍を呆然と見つめる。

「……えっと……」

どうしようか迷っていると後ろから声がした。

「何をしているのだ、貴様」

その声に振り返るとカミュが立っていた。

「カミュ先輩! おはようございます」

「ふんっ。挨拶などどうでもよい、俺の質問に答えろ」

相変わらずの上から目線のカミュに今までの経路を掻い摘んで説明する。

「……なるほどな……。すべての発端は寿、罪があるのは……美風、といったところか」

「……な、何故そうなるんですか!?」

思わず声を荒げてしまったが、それはまるで聞こえなかったようにカミュも三人の元へ混ざっていく。

「だから、ぼくは悪くない! ランランが蹴っ飛ばすからぼくが後輩ちゃんにぶつかりそうになっちゃったんでしょっ?」

「は? てめぇがあいつに抱きつこうとしたしてたのが問題だろ? つーか、藍、てめぇもいつまであいつを抱き留めてたんだよ」

「ランマルが何も考えないでレイジを彼女の方に倒れさせたのが問題だよ。あのままだとレイジと一緒に倒れ込むのわからなかったわけ? っていうかカミュは何さ、関係ないでしょ?」

「貴様等があやつを困らせていたから来てやったまでだ。好き好んで貴様等のところに混ざるわけないだろう」

言い合っている四人を唖然として見ていると突然、四人が一斉にこちらを向いた。

「後輩ちゃん」
「おい」
「ねぇ」
「貴様」

四人に一斉に話しかけられ、慌てて姿勢を正した。

「は、はい! 何でしょうか!?」

「きみは/おまえは/キミは/貴様は」

ピッタリとした声で四人は続ける。



「「「「誰を選ぶ?」」」」



「え……?」

真剣な四人を見て固まっていると四人は更に続ける。



「「「「誰が」」」」



まっすぐとこちらを見つめる四人の声はハモったままだ。


「好き?/好きなんだよ?/好きなのさ?/好きだ?」



彼らの答えに答えなければと思った。

だってあまりにも真剣な瞳だったから。

「……私は……」

一瞬、俯いてから再び顔を上げた。


「私が好きなのは――」












――選ぶのは――



――君次第――









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