いつまでも

□4話 考え方
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 あっちゅーまに、7日が過ぎた。あれから、八重に一言も話してへん。それよか、姿すら見てへん。
 もし、八重が『島に残る』言うたら、ワシはどうすればエエんやろ? 強制はしとうない。
「よし、浮いたで。これで完成や」
「縄を解けば、いつでも出発できるな」
「ほな、食糧集めや。ぽち、3人分の乗る場所残して、いっぱい食いもん集めんで」
「3人分? 4人分だろ。俺は、どこに乗るんだよ」
 籠にくくりつけた縄につなげた絵を見せれば、『こえーよ!』と言われた。ま、冗談やけどな。
「…で、結局、閨と八重は来ねーんだな」
「ああ…、里の人間が説得に失敗したんやろ。ま、こーなるとは思っとったけどな。このまま島に閉じこめられても、誰も幸せになれんのにのォ。アホやな、ホンマ」
「薬馬さん! すぐ来てください!」
「どうした?」
「里で草太が…、子供が…急に倒れて!」
「おい、空。どこ行くんだ?」
「食いもん集めに行くんやー。お前らは、ガキのとこに行ってろ」
「そうか、わかった」
 なんて、嘘や。
 大岩に来る前に気になった場所――洞窟――に駆けていく。八重は、まだそこにいるはずや。根拠はないが、なぜか確信は持てた。
「八重!!」
「っ! 空…」
 暗闇に、体を丸めて小さくなっていた。ぽちを地面に降ろして『ここで待っとれよ』とゆうてから、洞窟の中に入った。
「もう、行くのか?」
「せや。島のモンが説得しに来たやろ?」
 力なく頭を横に振られた。
「ここで一生過ごすんか?」
「わからない。大人たちは誰も話しかけないし、子供たちも怖がってる。あたしは…化け物だから」
「化け物? 誰や、そないなこと言うたんは」
 小さな声で『覚えてない』と答えた。目が虚ろや。肩も震えとる。
「真に受けるなや、アホ」
 軽く頭を小突くと、おそるおそる顔を合わせてきた。なんや、その反応。ワシが悪いことしたみたいやん。
「ワシは、1度もお前のこと『化け物』て思ってへんで?」
「ほん…と?」
「ホンマや」
 膝を抱えとる姿に見かねて、強く抱きしめた。
「ワシが、傍におる。なんも心配すんなや」
「いても…いいのか?」
「エエてゆーとるやろ。お前の頭はカラッポなんか?」
「いぎゃいーっ!」
 こめかみグリグリ攻撃をくらって、そこを押さえる八重を見て、無言で立ち上がる。
「島に残るか、ワシらと一緒に行くかは、お前が決めてエエねん。お前の人生やからな」
「う、あ、あたしっ、…きたい。空と一緒に、行きたい!」
「さよか」
 外から差しこむ光と洞窟の暗闇の境目で振り返って、手を差し伸べる。
「なら来い。薬馬たちも船に走っとるはずや」
「うん!」
 もう離さへん。いつまでも、ワシのそばにおれよ? とは、口には出されへんから、その代わりに細い手を強う握り返した。
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