恋物語第壱章・複雑な想い

□8話 不快感
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「…親父。…音に好きなヤツができたらしい」
「できたか、ついに!」
 ぱあっと笑顔になったその反応を、大人だなと客観的にみた。
「だが、相手によるな。俺でも知ってる子か?」
「ゲーム会社『双竜』の伊達だ」
「ああ。輝の息子か」
「…輝?」
「ちょっと待ってろ。卒アル持ってくるから」
 ちびちびと焼酎を飲んでいる間、遠くから大量の本が落ちる音やら、誰に向けたのか判別しにくい罵声が響いて、あわてて廊下を走ってきたわりには襖を静かに開けた。
「えーっと…お、あったあった。これだ」
 テーブルに広げて最後の数ページの片隅を指さす。そこには、俺とよく似た親父と政宗の父親がいたずらっ子のように笑い、その横には若かりし頃の互いの母親がはにかみながら、写真に映っていた。
「けっこう輝とは気があってな。まあ、お互い不良だったし。…妻は、子が生まれてから性格が変わってしまった」
「政宗のおふくろもか?」
「ああ。お前たちの母は言わずもがなだが…、この際だ。義のことも話す」
 眉間にシワを寄せた様子や、なかなか口を開かないことに疑問符を浮かべるほど、バカじゃない。そして、やっとのことで語りだしたのは、午後10時を壁かけ時計がさした頃だった。
「…長男の名は、政宗くんだったか…。その子が大病で右目を失ってからは、実の母親に殺されかける日々が続いたそうだ。父親は仕事で忙しいし、側近の小十郎くんも学校に通っていた間に…、すっかり心が荒れたんだろうな。数年前に輝と話した時に、不良になっているって聞いたよ。でも、彼がBASARA学園に入学する数ヵ月前に亡くなっているから、不謹慎だが命の面で安全になっただろう」


 ぱりん…


 あまりの衝撃にグラスを床に落としてしまい、乾いた破壊音がやけに大きく自分の耳に聞こえて居間に短く響いた。
「音と政宗くんは、互いに境遇が似ている。まとう雰囲気が似ているから惹かれあったんじゃないのか? いや、これはあくまで俺の推測だがな。っと、もうこんな時間か。片づけとくから、早く寝ろよ」
「………」
 なにも答えない俺を親父は静かに部屋から出て、放っておいてくれ、放心状態のまま夜を過ごした。
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