恋物語最終章・秘めた恋心

□2話 過去へ
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「ファイト〜!」
「…なんで!?」
 ストバス1回戦の相手よりも、応援席最前列で目にした彼に驚いた。
 なんでお前がいるの?
 他のスタメンは猿飛先生を見るなり、顔を赤く染めた。
 あっち見てないで、試合に集中しろよ!
「いつも通りいこう!」
『おー!』
 だが、前半残り数分という時にアクシデントが起こった。スモール・フォワードのリサが5つのピアスをした女の肘打ちをくらい、負傷した。その選手は退場になり、入れ替わってこっちは9つのタトゥーを入れた味方が、相手は片耳に五つずつ、合計10つのピアスをつけた女がコートに入って、10点差負けている状態でようやくタイム・アウトになった。
 その選手とすれ違いざまに、小さな声が聞こえる。
「トロいからくらったのよ」
「………」
 無言のまま素通りし、内心ではその女をフルボッコにしてやった。そして、水分を十分に採った後、ひとつの提案をする。
「後半は、作戦Sでいけるとこまでいこう」
「…え?」
 メンバーは、ちゃんと理解している。
「いいですね、それ」
「賛成です!」
 口々に肯定の意見あがることに満足して、口元をゆるめてパイプ椅子に乱暴にボトルを置き、首にかけたフェイスタオルで残りの汗を拭き上げた。
「っし。しんどいかもしれないけど、5分で追いつこう! Are you ready gay's!?」
『yeah!!』
「OK!! Let's go!!」
 作戦S。
 それは、『がんがん攻めろ』の意味と、『容赦するな』の合図だ。
 首輪を外した猛犬のごとくコート中を駆けずり回ってはボールを奪い、ゴールに叩きこむ。差はどんどん縮まり、宣言通り5分で追いついた。
 相手は、突然の緩急を織り交ぜた怒涛の反撃に戦慄して敗退した。


 順調に勝ち進み準々決勝に進出したまではよかったが、応援者たちがやっぱり最前列に陣取り、あたし達に手を振っていた。
「紅〜! 応援してるぞ〜!」
 よく知ってる声だった。
 全日制にいた時は数度しか話したことがないのに、懐かしむように勝手に口が開いた。その横に、私服姿の猿飛先生が頬杖をついているのに気づかずに。
「がんばります。家康様」
『キャプテンの彼氏?』
 副部長を始めとするメンバーに尋ねられて、激しく動揺した。
「え。ち、違うよ!」
「でも、部長の名前知って…」
「猿飛先生が教えたんでしょ。ほら、試合に集中する!」
 だが、度重なる声援の中に、
「ドンマイ! こまけえこたぁ気にすんな!」
 鬼と。
「あと one goal だぜ!!」
 竜と。
「紅殿、がんばるでござる!」
 若虎がいて、身体が思い通りに動いてくれなかった。いや。うそみたいに動かなかった。
 結果、2点差でBASARA学園の敗退。
 反省会が終わった後の帰路で、正確には自宅のマンション前でばったり猿飛先生に会った。
「お疲れさま。惜しかったね」
「……惜しいなんて思ってないくせに」
「思ってるよ?」
「…うそつけ」
 アディダスのバッグの肩紐を力に任せて、ぎゅっと握る。なぜか得体の知れない憎悪が、爆発的に胸に膨れ上がった。
「あの人たちを連れてきて、プレッシャーを与えたの先生でしょ! おかげでインターハイで優勝できなくて、あたしの夢が終わった!」
「へえ〜。ずいぶんと小さい夢なんだね」
「…なんだって?」
 さすがにカチンとして、見上げて睨みつけた。
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