恋物語第弐章・黄昏時の恋

□5話 届いた報せ
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 上田城に帰ってからすぐ聞いた報せは、今日の夕刻に翼殿の姿が見えなくなったことと、彼女の部屋の周りに黒い羽がいくらか落ちていたことだった。
「翼殿…っ!!」
 彼女を知らぬ伊達軍の者は、『誰だ、それ?』とでも言いたげに首をかしげ、横を通り過ぎていった。それから一刻ほど経った時、お館様と共に政宗殿が床についている部屋へ行く。
「手厚き処遇、感謝申し上げる」
「命は取りとめたようじゃな。じゃが、かなりの血を失うておる。口から流しこめるものを支度させておるゆえ、摂らせてやるがよい」
「恩にきまする」
「竜の右目よ。伊達を織田攻めの先方に見立てた我らを恨むか?」
「我々は、独自に動いたまで。こたびの武田、上杉の挙兵とは、もとより関わりなきこと」
「目先の国取りに固執する武将たちは、我らが織田を倒し、また同時に倒れることを望んでおる。かと思えば、武将にあらざる者の一人。毛利と長宗我部の使者として、瀬戸内へ向かった」
「…前田慶次」
 そして、片倉殿の『背に腹は代えられますまい』という言葉で、この会話は終わり退室する。その半刻後、西のほうから爆発音がした。様子を見に庭へ行くと、片倉殿が鍛錬をしていた。
「片倉殿」
「今しがた西のほうから妙な物音が聞こえたようだが…」
「それなら、配下の忍隊が確かめに向かっている頃合いにござる」
「そうか」
 彼が刀を鞘に納めたのを見計らって、再び口を開いた。
「心中お察しいたす。それがしとて、もしも目の前でお館様を…。相手は無数の飛び道具。伊達殿の負傷、片倉殿に責めはないと存じまする。むしろ、伊達殿は我らの代わりに種子島を受けられたようなもの。織田の鉄砲隊は、徳川を支援する手はずだったということにござれば…」
「そんなもの敵の腹ひとつでどうとでも変わる。戦場の常だ。ただ、あの明智って野郎、戦場を遊んでいやがるように見えた。どのみち周りを全てぶっ潰すつもりだとしても、織田にとって今この時期に、味方の浅井をほふり、徳川を欺くことが得策だったとは思えねえ」
「それは、たしかに…」
「野郎。織田の子飼いでありながら、その実、異端なのかもしれねえ」
「明智光秀…」
「真田の旦那!」
「佐助。その者は…?」
「文七!」
「片倉…様…」
 配下の腕に抱えられているのは、伊達軍の兵士の一人だった。
「おい、何があった!!」
「片倉様、良直たちが…」
「俺様が駆けつけた時には、この兄さん一人が倒れてた」
「他の者たちは?」
「連れ去られたらしい。こいつがその場に…」
 懐から取り出した文を受け取り、それに目を通す。
「…片倉殿! さらった者たちと引き換えに、武田の盾無しの鎧、伊達の竜の刀をそろえてさし出せと申しております。しかも、刻限は明朝」
「松永弾正久秀…」
「松永っていやあ、戦国の享有といわれながら天下取りに名乗りをあげず、今は庵にこもって骨董品集めに精を出してるっていう…」
 その後、むりやり床から身を起こした政宗殿は片倉殿と刃を交え、峰打ちをくらった。その横を、刀を拝借した片倉殿が通り過ぎていった。
「結局、一人で行っちゃうわけね。…あれ?」
 なにかに気がついた佐助が、耳をすました。
「なんか旦那の部屋から音が聞こえるよ?」
「何!? 取って来い! 机の引き出しにある!」
「…はいはい」
 音を奏でている間に、佐助から受け取った。翼殿に未来で買ってもらったカラクリ・携帯だ。それを開くと、めーるが一通来ていた。操作するのが久しぶりすぎて、それを開くのに苦労した。
「お、翼ちゃんが持ってたのと同じじゃない? へー、それが未来の文? 便利だね〜」
「少し黙れ、佐助」

 
date 11/3 19:03
from 翼殿
subject 無題
―――――――――――――――
もう上田城に帰った頃かな?
おかえり。
そこにいなくてごめん。
あたしを連れ去るよう仕向けた奴
は、松永っていうらしい。
今、そのおっさんの場所にいる。
何かあったら、また連絡する。
おやすみ。

 翼殿の居場所が分かった。それだけで、今まで膨れ上がっていた焦燥感が一気に安堵に変わった。
「優しいね。能面に似合わず」
「失礼なことを言うな!」
「ま、翼ちゃんの居場所がこれから行くとこと一緒でよかったじゃない!」
「う、うむ」
 それから、お館様に申し上げるためにいつもの広間に鎮座した。
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