恋物語第弐章・黄昏時の恋

□8話 それぞれの苦悩
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「長篠での傷も癒えつつあるようで」
「ああ。いつでも魔王の首を取りに行けるぜ」
「大事にいたらず、安堵いたしました」
「お前が言うか。…もう一度手合せといくか、小十郎?」
「卿とのお相手ならば、いつなりと」
 伊達の傷も癒え、今朝は1人鍛錬にいそしむ彼に片倉さんが歩み寄り、話しかける。そんな光景を遠目に見ていた。
「あたしも帰る時が来るんだよね…。彼の傷が癒えるのと同じように、消えていなくなる」
「な〜に独り言言ってんの?」
「ひゃ! びっくりさせんなよ!」
「それが俺様の仕事だから〜。って、こんなふうにゆっくり翼ちゃんと話したいとこだけど、大将に報告することがあるから。じゃあね〜」
「いってらしゃい」
 ごろごろと鳴り響く雷の音に、不安を募らせた。数分後、猿飛さんに謁見の間に呼び出された。暗い部屋の中で、彼の報告に黙って耳を傾ける。
「討ったのは、明智光秀。織田に正式な同盟の破棄を申し入れた徳川へ、魔王の名代として現れ、丸腰のところを問答無用で斬りつけたと」
 えげつない…とは思ったが、これが戦国時代に生きる者の定めだと他人目線で分析する。
「家康殿…」
 幸村が肩を震わせ、顔をうつむかせる。
「忠義に熱き徳川家臣たちの無念、心痛、いかばかりであろうか…!」
「信長の九州攻めに、明智は同行しなかったということか」
「報告によれば、明智だけじゃなく、織田の中でも群を抜いた戦闘力を誇る魔王の嫁・濃姫と、森蘭丸っていう弓使いも」
「本隊を九州制圧にやり、長篠の傷癒えず、いまだ包囲網ならぬ我らに、刺客としてその者たちを差し向けるやもしれぬ」
「東国の連携を絶ち、個別に落とそうって腹か」
「だとすりゃあ、次の狙いは武田のおっさんか、この俺か、あるいは越後へもすでにこのことは…」
「…ん?」
 誰かの悲鳴が鳳凰を通して聞こえてきた。
「どうしたのでござるか?」
「名前は知らないけど、越後のほうに、もう1人未来から来てる女の子がいる。今、上杉さんが濃姫の銃弾を受けた。忍者たちも弓使いの子に射抜かれている」
「なんと! 早く治療せねば!」
「大丈夫」
 手の平の上で、拳大の鳳凰を呼び寄せた。
「鳳凰。今から越後に行ってくれる?」
『わかったわ』
 ぽんっ、と音をたてて消えた後、佐助さんが尋ねてきた。
「そこで翼ちゃんに聞きたいんだけど、君が知ってる未来はどんなのだ?」
「詳しくは言えないけど、少なくとも織田が九州を攻めたなんて習ってないよ」
「なんだって!?」


→佐助side
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