りくえすと
□度が過ぎると
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薫は、烏羽目のバカと同じく、どこか抜けている。だが、ひとたび悪事に絡むと持ち前の身軽さと瞬発力、持久力を発揮する。
「うん、いいねー。役人との鬼ごっこって」
「薫、先に行くな」
「なに言ってんの、21でしょ? さっそく息きれちゃって、ジジイじゃあるまいし」
「お前の持久力が尋常なワケ!」
反論する間にも、喉からぜーぜーと情けねー音がする。
偵察だけのはずだったが、忍び寄る際に薫が石につまずいて、役人に見つかり今に至る。
「ほら、曲がるよ!」
俺の手を引いて、曲がった先には――
ごっ
ちょうど額に、太い幹があった。
「○□※〜!!」(意味不明な悲鳴)
薫は背が低いからすり抜けられたが、俺は違った。身長差のせいだ。ってか、なんでこんなトコに木があるワケ?
「ちっ!」
舌打ちを一回して、俺を俵かつぎして猛ダッシュし始めた薫。そのまま、ひょいひょいと木々を飛び越えて潜入先にたどり着いた。
「く、ろはっ! ただい、ま!」
「いでっ!」
後頭部に再び鈍い痛みが走って、一瞬だけ目の前が真っ暗になる。
「っつ〜…――っ!?」
上に何かが乗っていると確認するより早く、左耳にふぅ、と、少し荒い吐息がかかった。
「あー、つかれた〜」
むくり、と俺の上から、上半身だけ起き上がって、汗のしたたるまま笑顔を向けられた。だが、俺の視線は、着物の隙間から見える鎖骨と、うなじにいっていた。
「蝶左ってば、重いんだもん。樺地の馬鹿力ってヤツ?」
その体制で言うな、と叫びたいが、まだ頭が痛む。