いつまでも

□4話 考え方
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「いったい何が、どうなりましたの…?」
「…爆風で火が消えたみてェだな」
「ふー」
「泥ついとるで」
 八重の背中を軽くたたいて払ってやれば、『ありがと』ってゆわれた。普通に笑えるやん。
「ぽち、よー覚えとけよ。今ここにある命はな…お前の家族がくれたもんや」
 のびをしたり、ケガしとらんことを確認した後、島のモンが来た。
「閨ー」
「八重ー」
「みなさん…どうしてここに?」
「どうしてって…お前たちがいなくなって、森は燃えるし、爆発するし、心配で…」
 ホンマに八重のこと、心配しとらんやろ。名前呼ぶ時、めっちゃ棒読みやったで。
「しかし…、狸だったとはな。死んだ人間に化けて、死人が生き返ったように見せていた…。欲深いヤツらは、その嘘に踊らされちまってたわけか…。…なあ空、不死の薬がなかったのは残念だがよ、俺たちがこの島に来たことで、救われたヤツがいる…。そう思うと、来た価値はあったと思わねェか?」
「思えんわボケェ」
 薬馬の後頭部を蹴飛ばして、爆発の影響で小さな丘になったこの場所から蹴落とした。ほんで、腰に手を当てて説教した。
「ったく、無駄足踏ませよって。なにが『意味があった』や! 本来の目的果たせんで満足か! 不死の薬やゆーから、おもしろそうて来てやったのに、ありませんで済むと思うなや!」
「人助けって、てめーの目的は果たせたじゃねーか!」
「それはそれ、これはこれじゃ! おもしろないっちゅーねん!」
「おもしろい、おもしろくないじゃねーんだよ」
 ぽちと遊ぶ八重を見て、無意識に口元が緩んだ。
 ま、エエか。不死はなかったにしても、狸が化けるんも実際見れたし。世の中には、まだまだオモロイことがたくさん――
 物思いは、控えめに呼ぶ男の声で中断された。
「アンタたち…、改めて礼を言わせてもらうよ。おかげで島も安泰だ。2回も救ってもらって、なんと礼を言っていいか…」
 足元に転がっとる大きめの石を拾って、相手の頬めがけて投げた。
「まずひざまずいて頭を垂れい、土下座や」
「空ォォ!?」
 めごっ、と音をたてて石が頬にめりこんでから、男が地面に倒れた。ブザマやな。
「なに怒ってんだ!?」
「おどれらが舟襲って、積み荷盗んだのと、八重の悪口言うたの、忘れてへんぞコラ」
「今さらか!? それはもういいだろ!!」
「1回も謝らんといいわけあるかい」
「…ま、まあまあそのへんで…。これから3年は一緒に暮らす家族じゃないですの」
 ぽちと八重を膝の上に乗せて、『ワシらは、すぐ本土に帰んで』と答えた。なんや、八重えらい軽いやんけ。
「…帰れないぞ」
「どういう意味だ?」
 手振りを加えながら、八重がワシらに説明した。
「ここは、いつわりびとの流刑地。外界とは隔離されている。この島を囲む海流は、全て島に向かって流れてるんだ。入ってくることはできても、逆流しようとしたら、小舟なんかすぐに転覆する。脱出するつもりなら、よっぽど大きな船じゃないと間違いなく命を落とすぞ。刑期が終わる年、役人の大型船が迎えに来る。出る方法はそれだけで、次は3年後なんだ」
 1人と1匹が落ちんように両腕で固定してから、薬馬の頬を足でグリグリした。
「お断りや」
 そう言うてから、地面に足をつけた。
「『無理です』って言われて、『ハイそうですか』なんてブザマや。ワシは行くで」
「行くってどうすんだ?」
「別にィ…」
 空を指さして、自信満々に言うてやった。
「下がダメなら上があるやろ」
『空…?』
 そばに落ちとった木片と石を拾って、そこに絵を書いて説明した。
「こんな感じで、布を縫い合わせて、下で火をたいて、中に熱気を送るんや。そうすれば…」
「ぶわー」
「へー」
 まじまじと書いた絵とぽちの仕草を見て、ほんの少し目を輝かせた。ああもう、抱きしめてやろか。
「で…? その大量の布はどうすんだ?」
「なーに、そないなもん、布着とるヤツがそこらにたくさんおるやろ。オラ、人のモン盗んだ罪や。脱げや。ついでに縫っとけ」
「へェ…、こんなんで空を飛べますのねェ。世の中知らないことばっかりですわ。私も早くここを出て、いろんなことを知りたいですわ。八重も、そう思いません?」
「ん…まーな」
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