闇茜の天使
□U 哀れな双子
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ニナ「(それでは最後の質問。あなたには目的がありますか?)」
ラス「(あるが覚えていない)」
ニナ「(なら姉ちゃんの手伝いをなさい)」
ラス「(随分と急な話だな。何を手伝うんだ)」
ニナ「(まずは戦い方教えて)」
ラス「(……何故)」
ニナ「(何かを為すには力は不可欠じゃないか。正義のヒーローが可愛い乙女を助けに来たのに雑魚にボッコボコにされて逆に乙女に助けられるとか、そんなことは避けたいんです)」
ラス「(だが、この身体じゃな)」
ニナ「(魔術だけでも教えて)」
ラス「(魔導器なしでできるつもりか?)」
ニナ「(トリップ特典をなめんじゃないわよ)」
ラス「(……まあ、いいだろう。断る理由もない。発動の仕方くらいなら通信でも教えられるしな)」
ニナ「(やった!さすが我が弟!)」
魔術を教えてもらうことを約束として取り付けて一先ず安心。術式と仕組みさえわかればあとはどうとでもなると、まったく根拠のない思考ですが何か?むしろこれだけ不確定要素が多いんならもう一つくらい不思議があってもおかしくないよね。二度あることは三度あるっていうし。使い方間違ってるとか言わない!わかってるから。
ラス「(で、話が終わったんなら寝ていいか?稽古なら明日から始めてやるから)」
ニナ「(あ、もう一つ。私のことは姉ちゃんって呼んでいいよ)」
ラス「(誰が呼ぶか)」
それきりラスの方から通信を切られてしまい、何も聞こえなくなった。きっといくら起きていたくて心は大人でも身体が言うことを聞かないんだよね。本能には逆らえない。
仕方が無いのでそのままニナも眠りについた。
****
その夜、人の寝静まった夜半のこと。
新月を終えたばかりで闇が世界を覆う中、新たに双子の産まれた一家に訪問者が現れた。
コンコンと入り口を叩く音に気がついた父親が客を見て驚き、招き入れる前に彼らは家に押し入った。
「何かご用ですか」
「この家に双子が産まれたと聞いてな」
「それで騎士様がわざわざ来てくださったんですか」
闇夜に紛れて訪れた騎士は家の中を一見し、すぐに寝ている双子を見つけた。その口が忌々しげに歪められる。
「騎士ともあろう我らが下町のガキの誕生ごときでこんな薄汚い場所まで来る訳なかろう」
「では何故……」
「双子の誕生は不吉の前触れ。下町がどうなろうと知ったことではないが、帝都全域に不吉が及ばれては困るのだ。聞けばこの双子は新月の昼に産まれたというではないか」
「え、ええ……まさか…!」
「新月に産まれた赤子は周りに闇をもたらす。帝都に影響が及ぶ前にガキを捨てろ」
「できません!」
父親が我が子を庇うように騎士の前に立ち塞がる。そんな父親を騎士は鼻で笑った。
「何も二人捨てろと言っているのではない。どちらか一方を捨てれば良いのだ」
「できません。帰ってください」
「できないと言うか。ならば我らが代わりに捨てよう」
「!」
やれ、と先頭の騎士が命じると、後ろに控えていた他の騎士が動き出す。父親が間に割って入ろうとするが、それも別の騎士に阻まれ身動きがとれない。
騎士の手が双子に伸び、取り上げたのは男の子だった。誕生記念にと両親があげた小さな鉄屑のペンダントが胸元で揺れる。
急に掴みあげられた双子の片割れは目を開けるが、何故か泣かない。
「ラス!」
「ガキは回収した。撤退するぞ」
「(ん?何だ?俺、回収されるのか?)」
あまり事態が飲み込めないでいたが、普通じゃない父親の剣幕と騎士たちの行動からなんとなくの状況を察したラスはこの小さな身体ではどうすることもできないことを他人事のように客観視していた。そして、ここで泣けば周囲の住人が起きて来てこのどうしようもない状況を打開してくれるだろうということも理解はしていたが……泣きたくねえんだよ。しょうがねぇじゃねぇか。前世じゃ軽く数百歳超えてたんだから。大声で泣くのに抵抗があって悪いか?
「……」
「それにしても大人しいガキだな」
「(喃語を喋りたくないだけだ。にしても困ったな……明日から稽古つけるとニナに言ってしまったんだが、この通信は距離が離れていても可能なのか?……おい、ニナ)」
「すー…すー…」
通信で呼びかけてみるが残念なことにぐっすり眠っている。こんな騒動の中でよく眠れるなアイツ。母親は夜泣きに苦しまずに良さそうだ。
助けを呼ぶこともないまま、どうにも危機感を感じられないラスは悲嘆にくれる父親と気持ち良さそうに眠る姉を見ながら騎士に連れ去られ、その後彼の姿を見た者は一人もいませんでしたとさ。
「(んな訳ないだろ。俺は生きてるぞー)」
夜が明けていく……
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