御伽のサーカス
□第一章 人身売買
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軽快で軽やかな音楽が、森中に響きわたっている。
これはおそらく、サーカスのものなのだろう…。
アコーディオンや笛の音がとても心地よい和音を奏でたり、三拍子のもの、おもわずステップを踏んでしまうようなものなどたくさんのバリエーションがあるため聞いていて飽きない。
どうして僕は、こんな森のなかをあるいているのだろう……?
僕こと、ロア=カールトンは暢気にそんなことを考えていた。
そんな時、後ろから地面の草を踏んだようなカサッという音が聞こえてきた。
「おや?こんな森の奥に5歳くらいの男の子が。ボク、迷子かな?」
振り返ってみると、そこにはこんな森の中で着るにはずいぶんと奇抜に思える服装をした、ロアより年上の顔の整った若い男が立っていた。
奇抜というのは、他でもない。
……上下真っ黒なスーツに、これまた真っ黒なネクタイを締めており、頭にはシルクハットを乗せているという、全身真っ黒な服装だからだ。
「なんでお兄さん、僕のとしわかったの…?僕お兄さんと、あったことあるっけ」
「えぇっ!?何でかぁ…難しい質問だね。外見から推測したからかな?お兄さんは、ボクとは初対面のはずだもの」
子供特有の会話のズレが生じた。
最初若い男は『5歳くらいの男の子』と言ったはずなのだが、ロアには『5歳の男の子』と聞こえてしまったのだろう。
しかも、急に言い当てられたためロアは見も知らずの若い男と意図も簡単に、口をきいてしまっていた。
だが若い男は案外善人なのか、ロアが質問を質問で返すという失礼な行為をはたらいても怒るどころか、快く対応してくれていた。
「んぅ……お兄さんのゆってるいみがよく分からないよ…」
5歳の子供にとっては、推測や初対面などの言葉の意味がまだ分からないようだった。首を右側にコテンッと傾げていた。所謂『首を傾げる』という仕草の一つだ。
「ははは!そっかそっか分からないよねぇ。まぁ簡単に言うと、ボクと会ったことは無いってこと」
「なんだ、あったことないのか!あったことあったら僕しつれいだったから、あせっちゃったよ」
ロアはここで初めて笑顔を、若い男へと向けた。
心が和んだのか、若い男も柔らかな笑みを浮かべている。
そしてどこからか取り出した黒い杖を右手に、何も持っていない左手をロアへと差し出した。
「ボク、お名前教えてくれないかな?お兄さんは、ライズっていうんだ」