薄桜鬼

□真実
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私の鳩尾に力強い拳がめり込んでて、前のめりに倒れ込む私をその青年が抱きとめる。


「あ〜あ、この子まで気を失っちゃった。全く相変わらずだな土方さんは」


「そうでもしなきゃ、お前は殺されたかもしれねえんだぞ」


土方という男は呆れ、つい溜息をこぼす。


「見くびらないでほしいな。こんなヤワな子に僕を殺せるわけないじゃない」


ケラケラ笑いながら土方という男を見つめる。


「副長、死体の処理は如何様に……」


白い布を首に巻いた男が死体に近づき訊ねる。


「羽織だけぬがせておけ、後は監察に処理させる」


「どうするんです?この子たち」


藍を抱きとめている、青年が訊ねる。


「屯所に連れて行く」


「始末しなくていいんですか?さっきの見られちゃったうえに、刀向けられたんですよ?」


「そいつらの処分は帰って俺が決める」


それだけ言い捨てると、この場を後にした。







積っている雪の落ちる音で藍は目を覚ます。


『ん……?!〜〜!!』


私は知らぬ間に、どこの家の部屋かわからないところに縄で体や口を縛られ、布団に寝かせられていた。


私の動く音に横で寝ていた少年も目を覚ます。


そして、部屋の障子に人影が映り、戸を開く。


「目が覚めたかい?」


30過ぎぐらいだろうか、お父さんのような雰囲気を纏う男が近づく。


私はその男の目を決して睨みつけずただ見つめた。


「すまないねえ、こんな扱いで」


男は私の上にかぶさっていた掛け布団をのかす。


「今、縄を解くから少し待っておくれよ」


男は私の縄と口の布をとると少年にも同じようにしてあげた。


「ああ、総司のヤツ……こんなにきつく縛りあげられたらきつかっただろう?」


『あの……』


私は少し遠慮気味に男に問いかけた。


『ここどこですか?……あんたは誰?』


親切にしてくれた人にこの態度は無いと思うが私の性格からして警戒心など見知らぬ人には解けなかった。


「ああ失礼、私は井上源三郎です。ここは新選組の屯所だ」


「新選組……?!」


少年は目を丸くし、驚く。


『なんだ……それ』


私は新選組なんていう言葉を知らなかったから、素直に訊ねただけなのに、目の前の二人は「そんなことも知らないの」という目で見てくる。


「知らないんですか!?新選組を……」


『ああ、全く』


「驚いたな、世間の大半は新選組の存在を知ってるはずなんだが……」


そのことに私は今、気づく。ふいと私は目を反らした。


「まあ、ちょっと来てくれ」


井上さんがくいっと手で示す。私たちは井上さんの後をついて行った。
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