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□2.私は私、あなたはあなたです
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その現場を目撃した日は彼と会う約束をしていたが、急に残業になってしまったと言われ断られたそうだ。
残業中のはずの彼が他の女と仲良さげに手を繋いでいたそうだが、その場で殴ってやれば良かったのに。
「…追い掛けて一発ブン殴ればスッキリしたのでは?」
「で、出来るものしならしたかったですが…もう見たくなくて、逃げちゃいました。」
「女性はそういうものですか…」
「ブン殴っちゃう派の人もいると思いますけど…でも、良いですね鬼灯さまは。感情を真っ直ぐぶつける勇気をお持ちですから。」
「勇気も何も、腹が立った要因を黙って見過ごせませんからね。即実行するのは大切なことです。」
私が思っていることをそのまま返答すると、未都さんは鬼灯さまらしいですねと言って小さく笑みを洩らした。あぁ、やっと笑った顔が見れた。そう安心してしまう自分がいる。
「私、喧嘩になっても黙り込んでしまうことが多いからハッキリしろって余計怒られるんです。鬼灯さまみたいにすぐ思ったことを言えるようになりたいです。」
「羨ましがるほどの長所ではありませんよ。それに…私は私、あなたはあなたです。無理に人に合わせることありません。それに喧嘩をするのは彼が短気だからなのでしょう?」
「はい、その時は私が怒らせちゃったなぁって反省するんですけど…後々考えてみると彼の沸点が本当に低いというか…ちょっと意味がわからなくなりました。」
例えばどんなことで喧嘩に発展したのかと問えば、それはもうくだらない理由ばかりだった。
聞いた話だけだと第三者からして未都さんは全く悪くないようなもので。
けれど、彼女はいつも相手を怒らせているのは自分だと気負っているのだろう。
前々から思っていることではあるが、本当にいちいち頭に来る男だ。
「未都さん、今日は自宅まで送ります。」
「そ、そんな悪いです…こんなに話も聞いて頂いているのに余計迷惑掛けるわけには、」
「では、一つだけお願いがあります。」
彼女は少し不思議そうに首を傾げた後に私に出来ることなら、と返答した。
大した願いでもないのだが今までは幸せそうな未都さんには言えないことだった。
「明日、一件飲みにお付き合いして頂けませんか?」
ほら、私がそんなことを言うものだから拍子抜けしたような表情を浮かべる。
何故私が酒の力を借りたいのか、貴女にはわからないのでしょうね。
「近々愚痴をゆっくり聞くと言ったでしょう。私は基本的に有言実行しないと気が済まないので。」
「…あ!そういえば、さっきそんなこと…わかりました。私で良ければぜひ。」
ただ職場の上司と飲みに行くだけですよ、安心しなさい。貴女が安心してくれた方が、こちらは好都合ですから。
2014/07/29
Thanks