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□2.私は私、あなたはあなたです
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さて、とある女性のお話でもしましょうか。彼女、このところ元気がないようです。…きっと、私がそれに気付いていることすら気付いていないのだろう。
いつも幸せそうな笑顔を向けていた恋人のことだとは思うが、最近はあの笑顔すら浮かべる気配がない。
「今日も、なかなかお疲れのようですね。」
「鬼灯さま…す、すみません…私、また顔に出て…」
「謝らないでください。原因は…彼、ですね。」
以前、昼食を一緒した時に聞いた悩みは予想通りの恋人についてだった。あれから少し元気が出たかと安心したが、さほど日にちも経たないうちに再び彼女の表情は明るいものでなくなっていたのだ。
「…今日、残業はありますか?」
「いえ、もう退勤しましたが…あの、何かお仕事が」
「閻魔大王、今日はもう上がらせて頂きますよ。お先に失礼します。」
「えぇっ!?ちょっと急だなぁ鬼灯くん!まだ書類が…」
「いつもアンタより長々残業してやっているのは誰だと思ってんだ。半分くらい終わらせたら後は明日私がやりますから、それくらいお願いしますよ。」
半ば強引に仕事を押し付けて未都さんと共にその場を後にした。やって来たのは金魚草が生い茂る中庭。周りを気にしないようにと選んだ場所がここになった。
階段に腰掛けるよう促し、私も彼女と人一人分ほどの距離を空けて腰を下ろした。