dream

□独占Monster
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「そういえば、もうすぐハロウィンですねぇ」



生徒達でにぎわう学食内。

簡素なテーブルを挟んだ向かいに座っている明智先生が、ふと思い出したようにそう呟いた。


「ハロウィン?…ああ、確かにもうそんな時期ですね」

「未都は何か仮装などはしないのですか?」

「うーん…私、もう高校生ですよ?仮装パーティーか何かに参加するなら別ですけど、さすがに私ひとりだけで仮装なんかはしないですよ」



私のその答えを聞くと、先生は露骨につまらなそうな顔をした。


「おやおや…随分とつれないですね。未都ならなんでも似合うと思いますよ。例えば艶やかな小腸を身に纏った女ゾンビとか、奥ゆかしくも大胆に、中身を半分だけ露出させている人体模型とか…」

「なんで全部内臓丸出し系のモンスターなんですか。さりげなく先生のシュミを丸出さないで下さい。」

「甘いですねぇ未都…ゾンビも人体模型も、丸出し系ではなく内臓チラリズム系ですよ」

「なんか腹立つんでドヤ顔をやめて下さい。肉体から魂をチラリズムさせますよ」




明智先生の思考は、今日も異空間の狭間をさまよっているようです。










独占Monster

















「まったく…相変わらずくだらない会話をしているね、君達は」

「あ、竹中先生」

「………」




食事のトレーを手にしながら、竹中先生が呆れたように私たちを見下ろしていた。

この学校の音楽教師を勤めているこの先生。

綺麗な顔立ちといいキメの細かい肌といい、相変わらず年齢不詳なヒトである。

…まぁ年齢不詳というのであれば、私の目の前に座ってる不審な保健医も大概ではあるが。




「おや、これはこれは竹中先生…ご機嫌麗しゅう」


言葉こそ丁寧ではあるが、その声色に明らかな不機嫌さを滲ませる明智先生。

…そういえば、明智先生と竹中先生って仲悪いのかな?

この二人が会話をしているところ自体あまり目にしないが、数少ない会話シーンを思い出してみても、大概は二人を包む雰囲気にはどこかトゲがあるような…。


そんな不機嫌オーラ全開の明智先生をちらりと一瞥だけして、竹中先生はイス一つ分あけた彼の隣――つまり私の斜め前の席――にトレーを置き、腰を下ろした。



「まぁ下らなくはあるけど、少し面白いかもね、ハロウィン」

「あ、竹中先生もハロウィンに興味があるんですか?」

「興味というほどのものでもないけどね。でも、君が仮装するならちょっと見てみたいかな」

「はあ」



明智先生といいこの人といい、やけに仮装に食い付くいてくるな…。大の大人がハロウィンとはなんとも物好きな。




「じゃあ、もしですよ。もし仮にやるとしたらどんな仮装が良いと思います?」


私のその問いかけに、少し考える素振りをみせる二人。



「そうですね……セミとか?」


先陣を切った明智先生が、その場に異次元空間を召喚した模様です。



「せ…セミ!!?」

「具体的に言えば、道路に転がって人が通ったときにのみ瞬発的な底力を発揮するセミです」

「いや、べつにその辺の設定掘り下げなくて良いですから。ていうかなんでセミなんですか!?」

「なんかさっきそこにセミが転がってたんですよ。それを小一時間ほどじっと見てたら、なぜだか急に貴方の笑顔が頭をよぎって…」

「勝手に私をよぎらせないで下さい瀕死のセミで!ていうか小一時間もセミ見てたの、社会人なのに!?」

「驚異的な生産性の無さ…。君はアレだね、もはや酸素吸って二酸化炭素吐く機だね」



いつになく辛辣な竹中先生の言葉。

そもそもハロウィンにセミって1oも関係ないじゃないですか、どんだけ行き当たりばったりで人生送ってんですか。



「おやおや、随分と言って下さいますね…。それなら、竹中先生はどんな仮装が良いというのです?」


薄く笑みを浮かべ尋ねる明智先生。心なしか、その眼の奥に得体の知れない冷たさを感じる。




「僕かい?そうだね…」


そう呟くと、竹中先生の大きな瞳が私を捉える。

その表情に思わずどきりとした瞬間、私の頬に先生の手が自然な仕草で伸びた。

その瞳が、まじまじと私の顔を観察している。


え、あの、とたじろぐと、ちょっとじっとしてくれないかと制されてしまった。



「…猫、かな。黒猫。君は目が大きいからね」


それに、悪戯ばかりして言うことをきかないところもそっくり。

そう言い、くすりと小さく笑う。

その笑顔があまりに端正で、私は頬が熱くなるのを感じた。


…うーん…。この人、ホントに男にしとくのは勿体ないよなぁ。お人形さんみたいな顔してるし。





「……竹中先生。」


恐ろしいほど抑揚のない声色で、ハッと我に帰った。


「困りますね、ここは公共の場ですよ?」


穏やかな口調と表情だが、なぜか背筋に氷を落とされたような寒気が疾る。


「フフ、これは失礼。それにしても意外だね?君のような人間から『公共の場』なんて言葉が出るなんて」

「…どういう意味です?」

「君にも、そういう分別があったのかという意味だよ」



……あれ何コレ、超険悪。

二人とも笑顔なのに超険悪だよ。仮装するまでもなく悪魔とかユーレイに対抗できますよ、むしろあちらさんの方がいたいけな子供のように泣き叫ぶよ。
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