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□さぁ、嗤いましょう。
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腹の底が煮え切らない、いまいちハッキリしない時ってどんな時?
お腹がすいた時?朝早くに起こされた時?TKGをしようとしたのに肝心な卵を切らしていた時?定春があまり言うことを聞かなかった時?
「違うアル」
ただ単に一言。誰かが聞く訳でもない低い呟きを漏らし神楽はかぶき町を歩いていた。憤る理由はそんなちんけなモノじゃない。もっと大きい、言葉では表現し難い何かが神楽を蝕んでならないのだ。
バカ兄貴がこの江戸に来ているらしい。
大体同じ血を引いていることでも忌ま忌ましいというのに、その上同じ土を踏むことなど許せない。己より強い存在を求めるなら宇宙の方が可能性がある。わざわざ地球に足を下ろすなど考えるだけでも腹が立つのだ。
時刻は夕方を告げているはずなのに薄暗い曇天がその重苦しい空気と共に蔓延っていた。雨が今にも降りそうで降らない中途半端な天気。そのくせ湿気は確実に何処か急ぎ足の神楽にも平等に纏わり付く。
「苛つく。さっさと地獄にでも堕ちろ」
薄っぺらいチャイナ語を剥ぎ取って悪態を吐くと彼女は手にしていた傘を閉じる。これぐらい雲が分厚いならば日の光は届かない。それに、雨から庇う代物を掲げるよりかはびしょ濡れになった方が遥かにマシである。このまま怒りも洗い流してくれればいい。
不愉快な夜兎の血さえも。
「そこのお嬢さん、お嬢さん」
ふと声が掛かった。この世界には今の所大きく分けて二つの種族がある。人間とそれ以外の゙人間ではないモノ゙に相当する天人がそれにあたる。振り返ると後者に属する一人の天人が視界に入った。
「あ゙?今私は機嫌が悪いネ。話なら今度持ち掛けるヨロシ」
雇い主である坂田銀時には一言外に出るとは伝えてあるので多少帰りが遅くなっても問題はない。足を早めていたのも帰るなどという単純なモノじゃなく、このストレスを一刻も早く吐き出したかっただけの行動。従って目の前にいる天人なんかに構ってなどいられない。
「今じゃないとダメなんですよ」
比較的整った服装の宇宙人はその青く、病気のような肌の首筋を執拗に撫でながら本当に゙ダメ゙そうな空気を醸し出した。
「五月蝿い。私のような奴に話しかけるなんて道にでも迷ったかブルーベリー野郎。迷子ちゃんはさっさとお巡りさんに手ェ引いて貰って帰んな」
ここまでの挑発なら憤って怒るか呆れて他人に話を持ち掛けるかのどちらかだろう。なのに彼はゆったりした口調でのらりくらりと答える。
「いやぁ、本当にお嬢さんじゃないと困るの」
それが神楽の癪に触った。
「その白い肌、お嬢さんは夜兎族でしょう。俺は強い存在を集めて殺し合いさせる殺四有無(コロシアム)の経営者でね、君みたいな子をゆうか――――」
恐らく誘拐、という単語を使うつもりだったのだろう。だが色の気味悪い男がその先を言うことはなかった。
「五月蝿いって言ったのが聞こえなかったアルか」
ギチリ、と音がして男の手首が有り得ない方向に捩曲がる。
「イッ・・・いぁあぁ゙あァ゙あ!!」
嗚呼、鬱陶しい。
悲鳴を聞き付けたに違いない、路地裏から幾人――――いや何十人という単位で男の仲間が血相を変えて飛び出す。連れだと判断したのは皆が全て、その青い果実を彷彿させる気持ち悪い色合いをしていたからだ。遠い惑星のアバ■ーみたいだと鼻先でふんと笑う。映画で観たのとは似ても似つかない■バターモドキ達は怒りの矛先を神楽に向けた。
「よくも手を出したな」「俺らのリーダーを」「こうなったら何が何でも連れて行ってやらァ」
ありきたりの、ありきたりな言葉。ありきたり過ぎて乾いた笑いが浮かぶ。きっと普段なら此処まで苛つかない。兄貴の事を考えていると思考が短絡的になるようだ、と客観さがそう告げる。彼らの゙ありきたり゙は彼女の怒りを煽るには充分な程、出来上がっていた。
「相手は子供とはいえ夜兎だ!心してかかれェ!!」
低い地鳴りを慌ただしく立てながら天人達は一斉に襲い掛かってきた。
嗚呼、鬱陶しい。