小説

□家出宣言
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「ちょっと待てぇええ!!、なに堂々と家出宣言してんだ!このバカ!」


「兄に向かってバカは酷いよ、誠」



そんな会話をしている場所は絢爛豪華とは程遠い…寧ろ牢屋のような薄暗い会議室。


しかも会議の真っ最中だった。



幹部の皆は、あまりに唐突で堂々とした家出宣言に石化していた。

中には砂になった人、ではなく魔族の方もいる。


石化した幹部の横で尚、兄弟の言い合いは続いていた。



「ってことで、魔王任せるわ」

「任せるなっ!そんな面倒いもの!」

「俺も嫌だ!」

「お前が兄なんだから、魔王を続けるべきだろ!?」



兄弟で魔王の座のたらい回しという名の言い合いが。





このことを全世界の勇者が知ったらどう思うだろうか?

おそらく近くで石になった幹部のようになるだろう。
もしくは喜ぶのかもしれない。





いったい何故ここまで二人が魔王の座に就くのを嫌がるのか、と言うと…

魔王はものすごい面倒&デンジャーな職業だからだ。
常に死が付きまとう。




手下のした悪事が全て魔王の責任にされ、その処理に追われたり…。


手下のしたことなのに勇者に諸悪の根元だと勘違いされたりして…命を狙われる。




確かに下の者の責任は上にあるだろう。



…が、
いくらなんでも酷すぎるないか?俺は何もやってないんだぞ?

そんな悩みに頭を抱えて、ノイローゼにかかる魔王続出。




そりゃ誰もやりたくなくなるだろう。

魔王という職業が人気だったのは、もはや遠い昔の話だ。



そこんとこを最近の勇者にはわかって欲しい。
魔王に変わりなどいないのだ。



「だ、か、ら!世界征服まで後ちょっとだけだからいいじゃないか!!」


「ちょっとだけなら兄貴がや…りゃあ…。」


弟、誠は奥の扉を見て目を見開いていた。
しかも、顔色は真っ青を通り越して真っ白である。


ついでに石化が解けた幹部たちは思わず大丈夫か、と言いたくなるほど口を開いていた。

もはやムンクだ。



そんな彼らは皆、現魔王…勇魔の後ろに向いている。



…後ろにはいったい、どんな悪魔や鬼がいるんだ…。



そんなやつらのトップが恐る恐る、後ろにある扉の方に目線を移動させた。




そこには…




―――――元魔王(父)が降臨していた。




厳つい角と厳つい髭のダブルで怖い元魔王…だけなら彼らはこんなにも驚かなかっただろう。

普段からそれらは装備されている。



だが、問題は元魔王の現在の装備だ。


元魔王は全身ピクニック色に染め上げられていた。(頭に花やクローバーの冠付き)

リュックやサンドイッチの入った篭を持った、顔は相変わらず厳つい元魔王。


正直きも…いやシュールだ。




今なら勇者が幾人来ようと精神攻撃で倒すことが出来る。


確信を持ってそう言える気がした。
…味方も(大)ダメージを受けるのが難点だったが。




そんな元魔王に怯むことなく歩みよる勇者…いや現魔王がいた。


勇魔はシュール過ぎる我が父親を見上げて、


「父さん、俺家出するよ」


とド直球、ドストレートをぶん投げた。


そんな息子の家出宣言に目付きを鋭くさせる。
いつもの二倍の威圧感だが、見た目がアレな為に半減した。

つまり、いつもと同じだ。


「…ピクニックはどうするつもりだ」

「帰ったら行くよ」

「そうか…ならいい」


息子のストレートをホームランで打ち返した父親。


ズテンッと後ろで誰かが転けた。



きっと幹部たちか弟だろう。
彼らはきっとこれから先も苦労する。




この城にいる限り永遠に。
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