小説

□戦
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目の前には木々が生い茂り、鳥はさえずり、地図は復元不可能なほどに破れていた。
そして何故か方位磁石は北も南も指さず、クルクル クルクルと止まることなくまわり続けており…

…そこにもう一つ追加するなら食料も底をついていた。



「これって、もしや迷子?」

「完全にそうです…」





心なしか目がうるうるしている彼女、狭山 澪は勇魔のお目付け役and影武者という立場にある。

自由奔放過ぎる魔王に幼いころから振り回され、気が付くと「苦労人」というありがたくない称号までいただいた彼女は、今日もやはり苦労人の名に相応しい「遭難」という名の苦労をしていた。


「なんで私がこんな目に…」

「そういう運命ってことで…あー、お腹へったー…」

愚痴る澪に、勇魔はさして興味の無さそうにそう答えた。
いや興味がないというよりは、お腹が減りすぎて会話のキャッチボールすら危うくなっているのだろう。


「今、絶対適当に言いましたよね!?」
「どこかに食べれるものは…」

「き、聞いてない…」



ガクッと項垂れる彼女はこのマイペースさえ無ければ、もうとっくに世界征服を終えていた筈なのに…
と内心現実には起こりえない想像をしていた。





何故ありえないのかと言えば、勇魔のマイペースは生まれつきなのだ。




産まれた瞬間立って走ったかと思えば、次の日には殆ど動かなくなったり…


ずっと二十四時間母乳を吸っていたのに突然、一週間全く飲まないようになって餓死しかけたり…。




最近でいえば…勇者が目の前まで来ているのに、討伐されそうな本人はかなり本気であの、やればやるほど、回転させれば回転させるほど泥沼に嵌まるカラフルな四角い物体に悪戦苦闘していた。


あれはヤバかった…。…うん。





何がって完全無視された勇者が逆上して、その四角い物体、ルービックキューブを壊し…。

それによってお怒りになった魔王がヤバかったのである。




城が丸々消し飛んだ。ついでにその周辺半径十キロメートルも地図から消え失せた。




唯一の救いは死人…いや死魔族が出なかったことだが、その被害総額は国一つが滅ぶレベルだった。





これでまた一つ、魔族の人間に対する恨みが増えた。

どっちが悪いのかは卵か鳥か、どちらが先に生まれたかを問うようなものだ。









 
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