小説

□友情
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喰種(グール)
人の姿を持ちながら、人を喰らう化け物。
人肉と珈琲以外は口に出来ない人とは異なる物。
彼らは人に紛れて生きている。

そう、身近な所に確かに【存在】しているのだ。






カランカランと来客を知らせるベルが鳴る。
いらっしゃいませー、と人の良さそうな店主が来客に笑みを向けた。
眼鏡を付けているからか、知的な印象のその来客は店主に会釈すると窓際の席に座った。
ウエーターが、何か注文はございませんか?と問うが来客は軽く首を振った。
「喫茶店に入ったのに、珈琲の一つも頼まないんですか?遥也(はるや)君。」
ウエーターが客に対してするには余りにも不躾な態度。
遥也と呼ばれた客はその態度に文句も、眉一つ顰めることもしなかった。
「今日俺がここに来たのは、お前がバイトしてるって聞いたからだしな。」
ケラケラ笑いながら頬杖をつく客、もとい遥也。知的な見た目に反して中身はそうではないらしい。ウエーターはゆるく笑う。
「マスター!珈琲二つ!」
「ちょっ!?おまっ、俺頼んでねぇんだけど!?」
遥也が非難の声を上げるが、ウエーターの男は素知らぬ顔で珈琲二つを取りに行く。
深い香りを漂わせる珈琲を慣れた様子で運ぶウエーター。
「翔、お前慣れてるなー。」
先程の様子から一転、感心したように頷く遥也の座っているテーブルに、ウエーターの翔が珈琲を置いた。
「そう?んー、やっぱりマスターの教えが良いからかもね。」
「へぇー、俺も習いてぇ」
「バイトすればいいじゃん。」
むー、と眉を顰める遥也。数分間、悩みに悩みぬいた後。
「――――――…いや、やっぱり無理だな。んー、うん。あー」
「例の家の用事ってヤツ?」
遥也は翔が遊びに誘ってもなかなか誘いに乗ることはない。
大切な用事があると言っていつも断るのだ。
だが、特にそれを不快に思わせないのが、流石遥也といったところか…。
「家の、じゃねーけど、うん、そうなんだよなー…。」
「なら、しかたないね…。暇があるときにでも来てくれたら僕はいいや。」
おう、と遥也は頷くと店主に珈琲代を払い、出口へと向かった。
またな、うんまたね、と笑いあいながら店を出る。

だが――――――…店を出た後の遥也の顔に、笑みは浮かんでいなかった。




遥也が鞄の中から、小さなスーツケースのようなものを取り出し、路地裏へと歩を進める。
再び遥也が路地裏から出てきた時、彼が元いた路地裏からは微かな死臭が漂っていた。
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