小説

□憎悪
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喰種。

人を喰らい、人に化ける化け物。
彼らは確かにそこに存在し生きている。
悩み苦しみ笑って、生きている。

――――――まるで化け物のように。





――――――――――――――――まるで本物の人間のように。











カランカランと来客を知らせるベルが店内に響く。

ドアの隙間からひょいと顔を覗かせた来客に翔は、はにかむような笑みを溢した。
自身がアルバイトしている店に友人が来店したからである。
翔がアルバイトしている喫茶は、珈琲を飲むものにとってはそれなりに有名な店で同時に喰種の間でも有名な店であった。


何故喰種の間でも有名なのか。

それは、珈琲か人間の肉以外食べることの出来ない喰種にとって、珈琲が美味しい喫茶はそれだけで多少は有名になるのだが…理由はそれ以外にもある。
ここではその理由は割合させて頂くが彼、翔にとってこの店は様々な意味でアルバイトするに適した店であった。
今日は翔がこの喫茶でアルバイトをし始めて一ヶ月になる日である。
もともと遥也にはアルバイトをすることを隠すつもりだったのだが、何故かバレてしまった。
遥也曰く翔は表情に出やすいそうだ。
翔にはそんな自覚など無いのだが、そこは流石長年共にいるだけあってわかるらしい。
ポーカーフェイスが売りなのに、と翔は苦笑いするが特に苛立ちは無い。寧ろ、何だか嬉しく思ったほどだ。


翔にはアルバイトをする目的があったのだがそれも後数日で終了だと考え、アルバイト先に遥也を呼ぶことにした。
それが今日である。
店内をきょろきょろと眺める遥也は翔の姿を見つけると片手を上げて名前を呼んだ。

遥也が店から出ると翔はアルバイトに専念し始めた。暫くすると閉店の時間が来たのか店長がドアにcloseの札をかけた。これで今日のアルバイトは一応終了なのだが翔は店の奥へと入っていった。食事をするために。
個室で翔は血も滴る生の肉を綺麗に切り分けて食べていた。翔が無言のまま口に運ぶ生肉は見る人が見ればわかる。




その肉は人間のものだった。



 
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