それでも殺人鬼は嘘をつかない。
□2話 空気を読まない腹の音
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あー、っと。
……駄目だぁ。疑問が多すぎて整理できない。
五分前。
気づけば、あたしは寝転がっていた。どこにってあんた、床ですよ……でもあたしの部屋じゃないなぁ明らかに。
妙にもふもふなカーペットだ。毛布かな?
目蓋を開き、霞む視界にピントを合わせる。…………ん?
区切られた長方形の世界の下側から、もふもふとした動物性の茶色の手が覗いた。いやそれは良い、んだけど。
問題なのは、その動きがあたしの手と一致して、いる?
起きあがろうとして、ころりんと転がる。何だろ? 体が軽い。動きやすいとかじゃなくて、明らかに体重が変だ。
二足歩行ができない。っていうか手足が変。
ど、どうしよう。辺りを見渡し、姿見を発見したので駆け寄る。と言葉にすれば簡単なんだが、実際は難しいんだなーこれが。
まず立ち上がれないからどうやって動けば良いのか分かんないし。という訳で、這いつくばりずりずりと移動する。引きこもりなあたしにそんな体力がある訳なく、たどり着く頃にはぜぇぜぇと息切れしていた。
こんなところ人に見られたら……と嘆く。困ったもんだ。
そして。
そうして。
そこには何とも可愛らしい「猫」が座っていた。
えぇ、猫なんです。
例え耳が長くて伸びていても猫なんです。
例え誰が何と言おうと猫なんです。
例え何故かあたしの視点がいつもより低くても猫なんです。
――例えそれが、とあるポケモンに酷似していても。
と現実逃避してても事態は動かないので事実を見据えてみる。
んー、これはまごうことなきイーブイだなぁ。
ねーよ。
だってイーブイってお前、俗にいうポケモンよ? 二次元よ? いくら廃人なあたしでも、ちゃんと妄想と現実の区別はついてるっての。
そりゃあたしだって、ブースターにもふもふしたいとかルリリ抱きしめたいとかフワライドに連れ去られたいとか妄想したことはあるですよ! 何か急なキャラ変換しちゃったけどさ!
……待て待て。脱線してる脱線してる。だって、実際起こっちゃったもんね。これはもう不可抗力だよね。
まずは、と頬を引っ張ってみる。夢オチ希望。
むぃー。
『痛いなぁ』
そして口から出た言葉は「ぶいぶー」だったし、それがアニメの声優さんと全く同じ声だったから笑いたくなる。
あっはっはっはっは!
よし。とりあえずこれは現実だ。
とりあえず整理しよう。
・あたしがイーブイになった。
・這いずって姿見の前で百面相。
……整理も何も、そこまで情報ないもんね。まずは情報集めなきゃ。
ここはどこだ? と、もうちょい早く抱くべき疑問を明確にした。
部屋の隅には毛布があり、あたしはそこで寝ていた。そしてそのすぐ隣には、バッグとベルト(モンスターボールつき)。
そしてここにある姿見。部屋自体はそんなに広くないんだろうけど、物が少ないからか広々とした印象を与える。
バッグに近づいてみる。……四足歩行があまりにもスムーズすぎて情けない。
バッグ……あれ。これ、ポケモンBW2のバッグにそっくりだな。いや、ここまで来たならこれも本物だろう。
そしてベルト。これは……アニメのポケモントレーナーが腰に巻いているアレか。モンスターボール。意外と小さい。
……ふむ。あるってことは、中にポケモンが入ってるのかな。
一つ、取ってみた。
真ん中のボタンを押すと、ぎゅむっと大きくなる。うわぁ……科学の力ってすげー!
それから、手で掴めなかったので口でくわえる。びょいんっと飛び跳ね、ボールを放った。
カッと光がまばゆく輝き『まぶしっ』目を閉じる。けどそれはすぐに終わった。
……開眼。
紫色の気球に目とか色々ついたポケモン、通称フワライドがふよふよと浮き、無表情で(つってもフワライドの表情の区別つかないんだけど)あたしを見下ろしていた。
うわぁ、でっかい。感動もひとしおだな。
『……』
『……えーと、フワライドちゃん』ちゃん付けしたのは、あたしが使っているフワライドがメスだからだ。
『はい』わー言葉通じた。あたしイーブイらしいから、それもそうか。
『君さ、残りのモンスターボール開けることできる?』
『いいえ』
『あー無理かぁ……まぁゴーストタイプだし触れないか。じゃあ良いや、そこに居て』
『はい』
驚く程自己主張の少ないフワライドちゃんを放置し、もう一度ボールを放る。
……オーベム登場。こいつも、あたしの持ってるポケモンだ。
『お呼びですか、マスター』
『今何て?』
早速だが突っ込んだ。
『お呼びですか、マスター。と言いました』
『あーごめん、それは聞こえてる……何でマスター?』
『マスターはマスターです』駄目だ言葉通じない。
もう一度別のボールを放る。
オーダイル登場。でかっ!
うーん。こいつもあたしが使ってる。ここまで来ると、偶然とは思えない。
『お、サツキか。どうした? ンな小せぇナリしてよぉ』
『わー不良だー。っておいオーダイル。訊きたいことがあるんだよ』
『何だよ』
『あんたの名前さ、チェロっていわない?』
『何だ、今更だな』
勝ち誇られた。
……困った。