それでも殺人鬼は嘘をつかない。
□6話 爽快じゃない天空飛行
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雨が好きな人といえば農家の人くらいじゃないだろうか、もしくは体育がなくなり喜ぶ小学生か。
あたし自身はそんなに天気に関心はない。そもそも天気であまり変動しない生活を送っていたから。イコール引きこもり。
どべばばば! どべばばば!
特性が雨受け皿のルンパッパが最強耐久型になりそうな天候があった。さっきまでは葉緑素ヒャッハァーソラビ一発な晴天だったのに。
従業員さんは雨をものともせず走り出す。『えぇー……』いやあの、濡れたくないんだけど。
すると、バサッと頭に何かが乗った。
『ぁう?』
茶色のパーカーが、アキノの着ていたパーカーが被さっている。弟は軽装で、明日風邪でも引きそうな格好であたしの手を引いた。
『ちょ、アキノ?』
「濡れないようにね、姉さん」
……うーん。
昔は、逆だったんだけどな。
アキノが友達に誘われて行った公園。当時仕事で忙しかった母さんは、お使い代わりにあたしを連れ添わせた。
そして、天気予報師が罵倒されそうな土砂降り。
木の下で、泣いたアキノ。枝と葉の間から垂れる水滴。
怖くて心細くて、泣きそうになって。それでもあたしは姉ちゃんだから、弟を守らなきゃならないって思った。
パーカーをアキノに被せて、走る。雨が降れば、見知った町が異空間のように感じられた。明るかった空が暗黒に支配されていた。
こけそうになりながらこけたアキノを導いた。迷って、迷って、それでも家にたどり着いた。
わぁわぁと喚く弟。心配したと抱きしめる母。そしてあたしは、母さんに抱きしめられていた。
この世の全てが敵になったような感覚。
大げさかもしれない。幼かったからかもしれない。だけどアキノは、あの時何を思っていたんだろう。
そして弟は今、あたしの手を引いている。
あたしは退化した。
アキノは深化した。
成長されていた。
「おぅい!」
交差点の所に人が群がっていて、その中の一人に従業員さんが声をかける。赤毛の男が険しい顔を向けた。
「……誰だ? その子たちは」
「盗難ポケモンのトレーナーだ。状況を説明してやれ」
「分かった」
赤毛の男は表情を崩さぬまま、何故かアキノに向かって口を開く。あたしは?
「被害に遭ったポケモンは、フワライドとデンリュウです。留守中に忍び込んだ犯人は、その二匹をボールに収めて逃走しました。この近辺で逃走の跡が見られるのですが、未だに捕まっていません」
……フワライドとデンリュウ。フーマちゃんとジュノン。電波とヘタレ。
留守番してたあの二匹……そりゃあ捕まるなぁ。納得しちゃうね。
あの子たち以外のポケモンは、あたしの腰の玉(えろくない方)の中に収まっているから、盗まれなかったみたいだ。
「こんなことは珍しいんですか?」アキノが尋ねた。
「はい。バトレボで勝ちたい、でもどんなポケモンを育てれば良いのか分からない、という人がよくする犯行なんです」
あぁ、成る程ね。理解。勝ちたくても、勝てない奴が居る。
あたしも、初めはそうだったんだ。
勝てないから強いポケモンを使う。でもそれは厨ポケと罵られる。だから、上手い人を真似る。
それが普通。そうして人は強くなっていく。
……まぁ、あたしは別かもしれないけど。
閑話休題。それで盗まれちゃ、こちらとしてもたまったもんじゃないや。
アキノと目が合う。笑う。
どうやら、
「『考えてることは同じみたいだね』」
「えっ?」
赤毛が訝しげに、眉を潜めた。