Red Flame

□#00 幼女モラトリアム女人
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 全てやった。尽力した。使えるコネクションは使いまくって、屑野郎に頭を下げまくった。矜持なんて元からないんだ。
 やることはやった。
 そう分かっている自分と、だけど何かはできたのではないかと叫ぶ自分。

 雨がうるさい。お前がカルトの炎を消したのかと、理不尽な怒りがこみ上げる。
 だけど君の優しげな笑顔に、僕はどうしようもなく悲しくなってしまうのです。

「ねぇ、」

 どうしよう。
 ねぇカルト、どうしよう。

 何でそんなに、君は笑うの。

 死ぬんだよ。死んじゃうんだよ。
 死んだらもう、会えないんだよ。

 死後の世界。一度垣間見た無。底なしの沼。どろりと、抗う間もなく。落ちて沈む。
 あそこが死の世界なのか。あそこはまだ出発点だったのか。生き直すという咎は正解をもたらさない。

『エリオ、』

 やめてそんな顔をしないで。
 涙は出ない。悲しいのに。いや、悲しい? これは「悲しい」? そんな言葉じゃ捉えられない。捕らわれない。
 暴発も暴走もしないこの感情の名前は、なに?

「……ねぇ、」

 言葉が続かない。

 空っぽの手が、たくましい手を包み込む。
 片っぽの手は、小さな手を2つ使わないと覆えないくらい大きい。
 この手。この手で、君は僕を。僕らを守ってきてくれたじゃないか。

 もどかしい。思いが言葉にならない。
 伝えたくて、伝えたくて、伝えたくて、だけど手段が分からなくて、震える。
 だけどどこまでも僕に優しい君は、愛おしそうに、笑んでくれる。

「――……っ、」

 何を、やってんのさ。

 僕も、君も、神様も。

 失わなくったって、相棒の大切さは分かってんのに。

 僕は良い。僕なんかは良い。
 だけど。

「いかな、いで、よ」

 嗚咽が言葉を阻む。

「ぅぁ、」

 くぐもった音は、もう一つの手に乗せられた。

 頭を撫でられている。既視感。よしよしと。梳かれて、愛されて。
 そんな歳じゃないのに。あれからもう時はすぎて変わっているのに。
 いや、変わらない。
 相変わらずこの動作を心地良いと感じている僕が。
 相変わらずどうしようもなくみっともない僕が。
 糞餓鬼のまま背丈以外何も変われていない僕が居る。

 ねぇ。
 駄目なんだよ。君が居なきゃ。
 何もできないんだよ。君が居なきゃ。
 成長できない。もらとりあむ、もらとりあむ。安らぎに執着する。大人を嫌う。幼いままで。
 依存して。依存されて。

 死ぬな、



 手の中の温もりががくりと垂れて


 止まる 止まる 止まる、

 は

   終わる




 あ。
 あ。ああ。あああああああああああ。

 あー ーあ ー ーあー

 あ。

 とろとろとした取り留めのない塊にもなれない朧気なものがぐるりぐるりと取り込まれて回って回って着地できなくて動けない動かないどうして何も感情が吐き出せなくて中途半端に大人になって大事なところは何も変化せずにむしろ悪化して。

 閉じられた瞳は開く気配もなく、





「     」





 世界が音もなく崩れた気がした。

 家の大黒柱が壊れたように、崩壊していく欠落していく。


 あぁ、そうだ、この感情は、この感覚は、この感覚の、名は。






 ――喪失。
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