その他2

□ない世界で5つのお題
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【音のない世界で】



『姉さん今日の晩ご飯何が良い?』
『姉さん愛してる』
『姉さん大好き』
『何で僕を避けるの? 姉さん』
『愛してる』
『姉さんったら照れ屋さん!』

 タッチが主流な今の時代でも愛好しているガラケーの画面を閉じる。胃酸を吐くような辟易を感じた。
 そんな内容のメールばかり、昨日だけで64件。今日、正午を回ったばかりなのに48件。新記録更新なるか。受信フォルダに、未開封のメールばかりが溜まっていく。

 この世界にトリップして数年。突如あたしの前に現れた、殺したはずの弟は、あたしを求めて抱きしめた。
 どうやら弟は本気であたしに憎しみを覚えることはないようで、むしろ過度な程の愛情を向けてくれていた。
 だけどあたしの前に、キトという青年が現れてから、弟の態度は変化した。
 携帯電話にあった弟以外のデータは全て消去された。自分でも分からない場所に発信器がついていた。男女問わず他の人間と話すとキレる。目が合っても怒る。
 これが俗に言う、ヤンデレというものに属すことくらいはあたしにも分かっていた。

 だけど、ねぇ誰が思うよ。実の弟に監禁されるなんて。

 手枷についた鎖が重い。愛が重い。見張りのにくまんちゃんが申し訳なさそうな目であたしを見る。
 これがお似合いなのかもしれないと悟っている自分が居る。あたしはアキノを殺した。だからアキノのために生きる。因果応報だ。
 だけどそれは、あくまで理屈の話でありまして。
 感情は、そんなに簡単に割り切れないのでありまして。

 前触れもなく扉が開いた。毎回肩を跳ねさせ、入ってくる人物に目を添える。
 あたしの弟で、監禁犯。

 花が綻ぶような笑顔でこちらに駆け寄り、そのままハグされる。
 肌が冷たい。外はもう冬なのか。あぁ、髪に雪ついてる。初雪、見たかったな。
 弟はにっこにっこと笑って、ひたすらベタベタしていた。

 あぁ誰か、この子に言葉を。
 消せば消えるものではなく、もっと脳味噌を貫くように言葉を、誰か伝えられませんか。



それ嘘の姉弟は普通に病んでる。IF、というには現実感あって怖い。
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