Blue Flame
□#4 発砲する部下
2ページ/3ページ
この世界に来てから一週間。
気がかりなのはポケモンたちだ。
あれから、まだ一度も外に出してやれてないよ。
それは例えるなら、ゲーム廃人がアルプス山脈でいきなり農業するようなもの。
そりゃストレス半端じゃないよなぁ。
家はアパートの中尉の部屋の横の部屋を借りた。
料理や洗濯は旅をしている時からやっていたから、困ったことは起きなかった。
仕事にはとっくに慣れた。
書類の整理とか本を取りに行くとか、誰にでも出来る雑用ばかり。
それはきっと、大佐の配慮なんだろうと思う。
……けど、実際は。結局は、暇だよな。
毎日が退屈で、僕はもうすぐ死にそー。そんな日々。
――ある日、執務室はいつもより騒がしかった。
どうやら、列車がテロ組織に乗っ取られたらしい。大変だねぇ。
緊迫した表情で乗客リストを見る大佐の目が、ふと変わる。
そして余裕を持った笑いを浮かべた。
「あぁ諸君、今夜は早く帰れそうだ。――鋼の錬金術師が乗っている」
「鋼の錬金術師?」
首を傾げる。何だそれ?
「会えば分かるさ」
心地良さそうに微笑んだ大佐を、僕は気持ち悪いと思った。
+++
騒ぎが列車に向いている間に、僕は端の方でポケモンを一匹ずつ出そうと試みる。
けどやっぱり難しそうで、僕はため息をついた。
すると。
「おいっ! そこの男の子! 危ない逃げろ!」
そんな声がいきなり耳に響いたかと思うと、ぐぃっと衿を掴まれた。
そんで、首筋にナイフっぽいものを付けられる。きゃああーエリオたんきょわぁーい。
「て、てめぇら! このガキの命が惜しかったら、大人しくしろぉ!」
……ふむ。
どうやら僕は人質のようだね。
状況から察するに、この人は悪役。……しかしや、しかし。
オッサン、手ぇ。
ビキィッと血管が切れるんじゃないかと、ふと頭の端っこで心配した。
「ねぇおじさぁあん。あなたの手がどこにあるか、分かるぅう?」
「あ?」
「……あんたの手が触ってんのはなぁ、」
出番だぜ。
そんな思いを込めてボールを軽く叩く。
「僕の胸だよこの変態っ!! サナ、『サイコキネシス』!!」
姿は見せないけど、ボールの中からサナが念力を飛ばしてオッサンを吹き飛ばす。
それを僕は見遣り、ずんずんと歩いて行く。んで、腹を勢いよく踏み付けた。
「ぐぇっ!」
「オッサァアン? 僕はこんな格好でこんな口調だけど女なんですよぉ女。お・ん・な!
女って分かるか? それをテメーは何の遠慮もなく触るってのか、あぁ?
さすがゲスだな、いやクソか? カスか?
レディーの胸を遠慮なくまさぐるとか悪趣味な変態以上の何者でもねぇぞ。
テメーはコイキングか? いやそんなこと言ったらコイキングに失礼だな。せめてゴミか。
いや、どうだろう……せめてゴミなんだろうか? リサイクルすりゃゴミにも使い道は……」
「ぐぇっぷ、やめっ、ぐへぇっ」
「エリオ! どけ!」
大佐に言われた通り退くと、炎がオッサンの身を包んだ。
ふーん、あぁこれが錬金術ってやつかな?
それにしても、こいつはゴミじゃなかったら何なんだろう……チリ? ゴミと同じだそりゃ。
「ごぉあっ!? があああぁぁぁ!」
驚いて転がるオッサン。それを取り押さえる軍人。
「手加減しておいた。まだ逆らう、というなら次はケシ炭にするが?」
「……ど畜生め……てめぇ、何者だ!!」
「ロイ・マスタング。地位は大佐だ。そしてもう一つ」
大佐は衿に手をやり、俗にいう「ドヤ顔」ってのをして言った。
「『焔の錬金術師』だ。覚えておきたまえ」
「やだ」
「何ィ! ……エリオ、即答は酷くないかね」
「うるさいな童顔野郎。……あ、あれが噂の鋼の錬金術師?」
大佐を追ってやって来た、赤いコートのガキの姿が見える。
その横にはデカい鎧。そしてお馴染みの中尉。
「あれ? 大佐、こいつ誰?」
「彼が……いや、彼女がというべきか。エリオだよ。
ところでエリオ、君は本当に女性なのか? 何故言わなかった?」
「別にー。訊かれなかったしさー。勝手に勘違いした方が悪いんじゃないのー」
「それはそうだが……」
「エリオか。オレはエドワード・エルリック! こっちは弟のアルフォンス・エルリックだ」
「よろしくね!」
「……どうも。君の弟、随分と身長高いねぇ」
「えへへ」
外見に似合わない高い声。うん、僕はこっちが良いな下僕にするなら。
「あー、疲れた。んじゃ大佐、僕は先に帰ってるぜ」
「あぁ」
あのアンテナ、何の電波を受信してるんだろ?
→後書き