氷帝
□かみきりたい
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滝萩之介といえばあのサラッサラな髪だ。びっくりするくらいの髪のサラサラ具合だ。
私はそれに何度も何度も触れたいと思っていた。もちろん、今も。
だがしかし、去年同じクラスになり、そして今年も同じクラスになったからといって彼のその髪に触れることは未だ叶っていない。
確かに私のこの男のような性格のおかげか仲良くなれたけれど、やはり仲良くなったからといって彼の髪に触れていいということではない。
下手に触れてしまえば、テニス部のよくわからんファンクラブのような人たちに何をされるかわからない。
私の平和主義で事なかれ主義のおかげでそれを案じてしまい、結局はずっと触れられず仕舞いなのだ。
私が何故彼の髪にこれほどまで触れたいかというと、実は私は髪フェチなのである。
……嘘です。本当は髪質がそれほどまでによくない私にとって髪がサラサラというのは憧れだから。
だから触れたい。
一度彼にそう言ったことがある。そうしたら彼はいいよと言ってくれたのだが、触れるくらい構わないと言ってくれたのだが、私の真の望みはその先にあるのでやはり断った。
せっかくのチャンスを無駄にしたのはわかっている、わかっているのだがきっと触れると歯止めがきかなくなってしまうだろうから。
しかし今日の私は違う。今日の私は全然違うぞ。全然全く一ミリたりとも同じじゃないぞ。
「滝よ、滝萩之介よ」
「……え、何?」
「私に髪を切らせろ」
「…………え?」
ハサミを手に滝の前に立ちはだかる。
そう、私の望みとは彼のその憎たらしいほどにサラッサラな髪をこの手で切断することだ。
今まではなんとか抑えてきたがもう我慢ならん。切りたい。
「どういうこと? いきなりじゃわからないよ」
「私にとってはこの欲求はいきなりのことじゃないけどね。お前を初めて見たときから切りたい切りたいと思っていたよ」
「オレにとってはいきなりだよ。なんでそうなるの?」
「サラッサラだから」
「余計意味わかんないよ」
「頼むぜ滝さん、切らせてくれよ」
「普通に嫌だよ」
「安心してくれ、私よく友達の髪を切っているんだ。だからその辺の女の子よりはうまいよ」
ほらあの子とかあの子とか。あれ切ったの私だよ。
そう私の腕を信じてもらえるよう切った例を見せる。こういうのは信用が大切だ。信用してもらったところをざっくり切る。それが私流髪の切り方。
「確かに本当にあれを切ったならうまいと思うけど、だからってそう簡単に切らせられないよ」
「えー、滝のけち」
「いや普通だよ」