氷帝

□最低な一週間 前編
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 テニス部に入っているからといって彼女がいるかといったらそうでもない。
 他の部員は確かにいたりするし、普通の部活よりは彼女持ちは多いと思う。宍戸とかが彼女連れてるのは見たことないけど。
 でも、だからといってオレに彼女がいるかといったらそうでもないし、むしろオレはリア充反対派だ。爆発したらいいのに、なんて思うほど。
 目の前でいちゃつくような奴は本当に爆発したらいいのに。あーもうほんと死ねばいいのに。


 てかさ、テニス部ってだけでリア充みたいに思われても困る。非リアだっているんだよ、非リアだって。
 なのにさあ、そうやって思われたら嫌でもリア充みたいに振舞わないといけないじゃないか。疲れるんだよそれって。
 いや、疲れる疲れないの前に、虚しい。すごく虚しい。本当は好きな子に話しかけられもしないのになんでそんなリア充ぶってんだよ、って自分に言いたくなるくらい。


 ……ああ、自分で思っといて余計虚しくなってきた。なんだってこんなに虚しくならないといけないんだ。全部リア充のせいだ。リア充死ね。
















1日目



「滝、だっけ? よろしく」
「……よろしく」


 一体どうしてこんなことになっているんだ。
 落ち着け、自分。落ち着いて状況把握に勤しまなければ。


 今月の席替え、ということで楽しくもなんともない席替えが始まった。
 楽しくもなんともない、というのはきっとこのクラスではオレくらいしか当てはまらないだろうけど、とりあえず席替えなんて楽しくもなんともない。
 隣になるのは誰だろう、とか、好きな子の隣になれたら、とか、そんなことを楽しみにするものだけど、そんなことオレは楽しみでもなんでもないし。
 だって一人を除いてクラスメート全員と喋ったことあるし、好きな子の隣とか心臓が持たないし。もちろん喋ったことないのは好きな子だ。


 なんて、思ってたのに。
 ベタな展開だと思うだろう。思っていいよ、オレだって思ってるし。


 隣は、オレの好きな子だった。


「おお、この席なかなかいい席だ。先生からあんまり見えない。なのに黒板はよく見える。最高だと思わない?」
「そ、そうだね」


 駄目だ、喋れない。喋れるわけがない。
 オレの好きな子である神木森羅さん(呼び捨てにする勇気はない)は、いつも快活な笑顔を浮かべてて誰にでも同じ態度で接するクラスに自然に溶け込んでいる子だ。
 言っていいのかわからないけど顔は中の上くらいでも、その笑顔はとても可愛くて。
 まあそれだけで好きになったわけじゃないけど、隣の席とか最悪だ。喋れない。

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