氷帝

□最低な一週間 後編
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5日目



 一日飛んでいるが気にしないでほしい。ただ単に学校自体を休んだだけだから。
 神木さんを困らせてしまったという罪を犯したオレは、どうやらそれに耐えられなかったらしく熱を出してしまった。

 そのおかげで一日休んでしまったのだけど、それはそれでよかったのかもしれない。一日寝ていると、これから自分がどうすべきかわかった気がする。神木さんを困らせて、挙句の果てには目に涙を浮かべさせるなんてことまでしてしまったオレは大罪を犯したも同然だから、今後の立ち回りをちゃんと考えないといけない。


 そうして考えた結果、決めた。
 オレはもう、神木さんに関わらない。


 避けられるだけ避けて、神木さんの目に留まることもなく生活しよう。不測の事態に陥ったとしても絶対に神木さんを困らせないように、オレと神木さんだけにならないようにする。絶対に二人だけにはならないように。第三者を一緒に連れて、その人に神木さんとコミュニケーションをとってもらう。オレは絶対に神木さんと口を利かない。絶対に。

 そうする方が神木さんを困らせないし、オレがまたおかしなことをすることもない。
 席はまあ、仕方ない。それはどうにもすることができない。できるだけ関わらないようにしつつ、次の席替えを待つしかない。


「……あれっ」


 教室に入ったらすぐに違和感に気付いた。
 いつもはオレより早く登校している神木さんが、オレの隣の席にいない。鞄すらかけられていないところを見ると、まだ来てないみたいだ。


 珍しいなあと思いつつ自分の席に着くと、先にいたクラスメートの一人に声をかけられた。
 よく神木さんと一緒にいる女子に、気まずそうに。


「滝くん、森羅と何かあった?」
「……何かって?」


 教室にいたクラスメート全員がこちらを見る。
 神木さんの話題になると大体こうだから、このクラスのみんなは神木さんが好きなんだとよく分かる。分かるからと言ってこんな風に注目されるのはちょっと辛いんだけど。


「森羅ね、今日休むんだって。体調崩したらしいんだけど……。昨日から元気なかったからそれだけじゃないんじゃないかなって」
「……」
「一応みんなに思い当たることがないか訊いてるんだけど……何かない? どんなに小さいことでもいいから」


 思い当たること、なんてたくさんある。
 オレは神木さんを傷付けるようなこととか失礼なこととかたくさんしてきたから。
 極めつけはおとといのアレだ。アレのおかげでオレは神木さんに嫌われたも同然なんだ。
 ……やばい。自分で考えておいて悲しくなってきた。目の前がなんだか滲んで見える。


「……ごめん。それ、多分オレのせい」
「え、滝くんが? まさか」
「本当だよ。多分オレのせい。というか90%オレのせい」


 正直にそう告白すると、こちらを見ていただけだったクラスメートたちが一斉にオレの机を囲んだ。
 なんだこの状況。いやオレが神木さんにやったことを思えば当然の報いなんだろうけど。だからといってこれは怖すぎる。


「滝ぃ……事情を詳しく説明してもらおうか」
「素直に話してよ、嘘でもついたら……わかってるよね?」


 ……怖い。怖すぎる。
 男子も女子も関係なく何があったのかを問い詰めてくるクラスメートたち。こんな人たちだっけ、と思うのはオレだけじゃないはずだ。このクラスは神木さんを中心にちょっとした喧嘩すら起きることが珍しい平和なクラスだったのに。
 そうか、中心がいないからこんなことになったのか。
 ということは、みんなが豹変したのはオレのせいってことか。申し訳ない。


 オレも覚えてないところがあるため断片的にしか話せなかったけど、一昨日に神木さんを泣かせてしまったことを正直に素直に何一つ包み隠さず説明した。
 するとみんなは頭を抱えて「それのせいか……!」と嘆いていた。


「くそっ……最初から滝にも話しておけばよかったのか……?」
「でも神木さんに滝には話すなって言われたじゃん」
「だからって話してたらこんなことにはなってなかったんだぞ? 神木さんを傷つけるくらいだったら言ってたほうがよかっただろ」
「それはダメよ、森羅は話すことを望んでない。それに、そういうことは本人たち次第でしょ? いくら森羅の友達だからって、そこまで踏み込んだことしちゃ嫌われる」
「くっ……なら一体どうすればよかったんだ! どうすれば神木さんを助けられたんだ!」


 何故そこまで嘆く、と傍から見たら思われるくらいに嘆くクラスメートたち。
 若干引いたのは秘密の方向で。

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