Gift

□ジェラシーの定理
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「シャララ☆ってかなりの鈍感だよね」

とてもいい笑顔で、赤司君はそう言った。足を組み腕を組んで机に腰掛けているだけなのに、なんだか支配されてるような気になる。
しかし私は学科係で提出物を返して回っている途中なのだけれども。

「はい?」
首を傾げながらも、赤司君の隣の席の男子にノートを手渡す。しどろもどろになるその男子を見て、赤司君は「そういうところが」と笑った。赤司君のご高論は、たまに私の思考能力のキャパを超える。

「はあ。そりゃ赤司君に比べたら誰だって鈍いでしょうよ」
「ふふっ。君はとても頭が良いのに、どうしてそこまで機転が利かないんだい?」
「学年トップのあなたに言われたい台詞じゃないけど」
「一度とはいえ、僕に勝ったのを忘れたとは言わせないよ、シャララ☆」

確かに、一度だけ赤司君に勝ってしまったことがある。最初の中間試験の数学で、赤司君と同点を取ってしまったのだ。同点だから引き分けだと思うのだが、誰かと並ばれただけでもう負けだ、なんて言って譲らない。

「……どんだけ根に持ってるんすか。コワイヨー、とっても怖いよー」
「女に負けたのなんて、生まれて初めてだったもので」
「そーゆー考え方、ダンソンジョヒって言うんだそうっすよ」
「バリバリの理系女子なのに良く知ってたね。偉い偉い」

身長に物凄いコンプレックスをお持ちの赤司君はこれ見よがしに私の頭を撫でた。私の身長は155センチくらいしかないため、色々とちょうどいいらしい。

バスケ部(笑)とか思っていると、急に撫でる力が強くなった。もはや摩擦熱が発生する域だ、赤司君マジ怖い。


すると、タァーン!と扉が開け放たれる大きな音が響き渡った。

物凄い速さで何かがこちらに向かってくる。
このままのスピードだと勢い余って赤司君ごと吹っ飛ばしてしまうだろうと判断し、机から一歩前に出た。目の前でスプラッタが展開されるのは御免だ。

それと同時に、頭の上に置かれていた手は元の位置に戻されていた。

「シャララ☆っ」
計算通りの軌道を描き、彼――小太郎先輩は私に飛びついた。休み時間でクラスメイトもいるのに、辺りもはばからず強く抱きしめられる。

一応言っておくけれど、普段からこんなことをしている訳ではない。いつもと違う彼の様子に、私は困惑するしかなかった。

「小太郎センパイ、苦しいです。いきなりどうしたんですか」
「なんでだろーね? シャララ☆が考えてみてよー」

どうしよう、困った。
誰かに助けを求めようにも小太郎先輩のおかげで視界は無いに等しいし、身動きを取れそうもない。

仕方ない、思い付いたものを言ってみよう。
「もしかして、廊下でGに遭遇したとか?」
「違う。俺女子じゃないから」
「じゃあ、私で暖を取ろうとしてます?」
「その発想は無かったー」
「うーん……あ、ハグで鬱病治療? 学術的に効果が証明されてるらしいっすよ」
「誰が鬱病だ」

「すみませんギブです。ヒントください」
誰かがクスリと笑った。あ、赤司君か。

「小太郎、いつから居た?」
「……赤司が、シャララ☆って鈍感だよね、って言ったあたりから」
「そんな前からいたなら、早く声かけてくれればいいじゃないすか」

「……だって、シャララ☆、赤司と楽しそうにしてたから」
小太郎先輩から、拗ねたようなくぐもった声が聞こえてきた。

やっぱり私は機転が効かないらしい。

「……いやいや、そんなに楽しい訳じゃないんで」
「頭、撫でられてたし」
「この惨状を見てそれ言いますか。頭のてっぺんだけ天パになりそうなんですけど」
「でも、」

「それに、彼氏と友達は違います」

人間の感情は、数式のように理屈じゃ割り切れないと知った。生々しい感情も、不快じゃないことを知った。
恋というのはそういうものらしい。


「小太郎先輩のことが、だいすきなんです」

彼にだけ聞こえるように言うと、よほど驚いたらしく動きが見られない。あの彼がここまで驚くなんて相当だ。

猫のように大きな目が見開かれている様子を思い描きながら、先輩の首に手を回せば、

「俺も」
強く、強く、抱きしめ返された。






ジェラシーの定理

「いやはや、いいもの見せてもらったよ」
「……赤司、もしかして俺で遊んだ?」
「いいじゃないか。結果オーライだろう? ふふっ、恋愛も捨てたもんじゃないな」
「赤司君じゃ絶対無理」
「…………」

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