君の瞳に映るもの

□4.晴れ、ときどき花
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千空、クロム、銀狼の3人で最難関素材である硫酸の採取に成功し、ついに必要な素材が揃ったのでサルファ剤の調合を行うためにいろいろと作っているのだが…。
塩酸、クロロ硫酸、水酸化ナトリウムと聞いたことがない劇薬が次々と誕生していく。
スイレンはクロムから絶対に飲むなよと釘を刺されてしまった。
スイカから薬草採集の際にスイレンが毒を食べるということを聞いた千空にもこれらの劇薬には絶対に触れないようにと接触禁止令が出されてしまった。


「いや、流石にそんなやばい匂いのするものは口にしようとは思わないよ…」

「前にヤベー匂いのキノコ食ってたじゃねえか」

「あれは毒の匂いじゃないよ」

「毒の匂いが嗅ぎ分けられるとか犬かテメーは」


常人よりも鼻が利くスイレンには匂いがきついのか若干涙目で千空の持つ劇薬たちから距離をとっている。
あと足りないものは重曹、アニリン、無水酢酸の3つというところまで来たのだが酒があれば作れるらしい。
酒を造ろうとする千空とクロムに明日の御前試合で優勝すれば村から飲みきれんほど振る舞われるぞというカセキの言葉で御前試合はもう明日に迫っていることに全員気が付いた。


「千空が…御前試合に出る……!!?」


いつの間にやら銀狼が千空の出場を申し込んできたらしい。
確かに14歳以上で未婚で村の住人以外が御前試合に参加すること自体は禁止されていないのでルールの範囲内だ。
金狼は八百長だと騒いでいるが、クロムとコハクは賛成している。


「まあ、仲間が多い方が優勝できる確率は高くなる、よね…ごめん、私も賛成で」

「スイレンまで…」


金狼はショックを受けているがルリを救うためだ、背に腹は代えられないとスイレンも賛成することに。
到着から実に5か月、その日初めて千空は村へと一歩降り立った。
千空という名前を聞いてルリはなにやら反応を示したが苗字を聞いている最中に倒れてしまう。
苗字とは名前の上につくもう一つの名前らしく、確かコハクが先日の怪我人を「あさぎりゲン」と呼んでいたことがあったので「あさぎり」というのがゲンの苗字なのだろうと考えつつスイレンは御前試合の間ルリの近くにいることにした。


「…顔色が良くないね」

「すいません、スイレン。私はもう…」

「…」


弱々しいルリの声に助けられるだろうかという不安がスイレンの心を締め付ける。
無言でルリの手を握り前を見据えるスイレンを見て何かを感じ取ったルリは弱音を吐くことをやめ同じように前を向いた。
色々とアクシデントはあったが御前試合は概ね順調に進んでいき、マグマとクロムの試合となった。
金狼がかなりのダメージを与えていたが、クロムとの戦力差は圧倒的だ。
マグマはわざと勝負を決めずにクロムをいたぶっている。
だが、クロムには何か考えがあるようで御前試合用の槍の先にスイカの眼鏡をひっかけてマグマへと突き出した。


「マーグマちゃ〜ん」


突然響いた声はルリとスイレンがいる建物の屋根の上から聞こえた。
驚いて屋根の上を見上げれば以前とは比較にならないほど回復している姿にスイレンは安堵した。
下から見上げているので顔までは見えないが元気そうである。


「このないだはどうも、殺してくれてありがとう」


動揺するマグマに声の主であるゲンは妖術で生き返ったというハッタリをかまし花を降らせて見せた。
青空に舞う白い花はとても美しく思わずスイレンは見惚れてしまう。
そしてマグマの心臓に一歩でも動くと心臓が爆発する妖術を掛けたとゲンは更に畳みかける。
反則じゃないかと騒ぐマグマに千空もハッタリならただのヤジだから問題ないと発言しているがなかなかに悪い顔をしている。
マグマの動きが止まり何かに気づいたクロムはわざとらしく腰が抜けて動けないと言っているが酷い猿芝居だ。
一方、1分しか止められないと発言しているゲンはなかなかの役者である。
千空の科学、ゲンのマジック、クロムの執念、3つの力が合わされば光はそこに火を灯す。


「はたけ」


千空の声に思わず火のついた部分をはたいた瞬間、マグマの服の表面に一気に火が走る。
そんなマグマを水の中へと突き落としこの試合はクロムが勝利したのだった。





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