君の瞳に映るもの

□7.今まで飲んだどれよりも
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しばらくしてスイレンは目を覚ました。
いつの間に寝てしまったのだろうかと記憶をたどる。
ゲンに頭を撫で回されたのは覚えているがそこから先の記憶がかなり朧気だ。
なんとなく違和感を感じて頭を触ると適当に結んでいた前髪はきれいに結び直されていた。


「おはようスイレンちゃん」

「…おはようございます」


カーテンの隙間からひょっこりとゲンが顔を覗かせている。
そこでスイレンはようやく自分が寝ていたのが診療所の奥のスペースであることに気が付いた。
寝かせた後にカーテンを閉めてくれたのだろうゲンはなかなかに気が利く。
運んでくれたことに対して礼を言えばお礼はハグがいいな〜と返ってきた。


「抱き着き癖でもあるの?」

「そうやって冷静に返されると困っちゃう」


年上のお姉さんに甘えたいお年頃なのよ〜というふざけた返答を無視して診療所を出れば慌てた様子でゲンが付いてくる。
これから最終工程を行うところらしくスイレンが寝ていた時間は割と短かったようだ。


「診療所を任されてるスイレンちゃんがこの歴史的な瞬間を見逃すわけにいかないでしょ」

「そうだね、ありがとう」


ルリの病気を治すための新しい薬が完成する瞬間に胸が躍る。
そしてスルファニルアミド、別名万能薬サルファ剤が完成した。
嬉しさのあまり大声をあげて騒ぐクロムとこれでルリが助かるという安堵で涙ぐむコハクを見ているとスイレンも涙が出そうになるが、泣くのはルリの病気が治ってからだと思いぐっと堪えた。
早速薬を飲ませるために村へと向かうが部外者であるゲンは村に入ることができないのでラボで待つこととなった。


「こういうのはコウモリ男の宿命だね〜」


そう言いながらラボへと戻ったゲンは机の上に1本の瓶が置いてあることに気が付いた。
瓶には動物の皮で作ったラベルが巻かれていて千空の字で「Cola」と書かれている。
炭酸以外の材料であるパクチー、ライム、ハチミツは千空指示でスイレンが作業の合間に集めてきたものである。
ゲンはキンキンに冷えたそれを迷わず手に取り飲み始める。
3700年ぶりのコーラは今まで飲んだどれよりも美味しかった。


「千空ちゃんも粋なことするね〜」


ラベルの裏には小さくおかわりはスイレンまでと書かれていた。
それを見てクスリと笑みをこぼしたゲンは再びコーラを煽るのであった。





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