君の瞳に映るもの

□8.花の香りに包まれて
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ゲンがラボでコーラを飲んでいる頃、村では千空がルリに出来上がったばかりのサルファ剤を飲ませていた。
村の住人の大半が見たことのない白い粉を見てあれは何だ、大丈夫なのかとザワついている。
スイレンも祈るように両手を固く握り固唾をのんで見守っている。
サルファ剤を飲ませた後、診察のお時間だと千空はルリの背中にグラスを当て耳を寄せた。
突然の行動にルリも周りも困惑している。
どう見てもセクハラだ。
千空にその気がないことがわかっているのはサルファ剤作りをしていた科学王国民とそれを見ていた金狼、銀狼くらいだろう。


「イーって言ってみろ」


千空の指示にルリは戸惑いながらもイーと声を発する。
スイレンはあれで何がわかるのだろうかと気になり後で聞いてみようと思いながら様子を見守っていた。


「どうすんの千空ちゃん、そのネズミ…?」

「食べるのか?」

「だめだよコハク、やばい匂いがする」

「即そういう発想になるのがすごいね…スイレンちゃんの嗅覚もチート過ぎてバイヤーだけど…」


ルリの家に転がっていたネズミの死骸を見て各々発言しているが、コハクの食べるのかという発想とスイレンの嗅覚にゲンがドン引きしている。
そして普段は食べないというコハクの発言を聞いて再度ドン引きしていた。
確かに普段は食べないが、冬が近づき食料が減ればネズミを食べることもある。
実際にスイレンもネズミを食べたことがあると説明すればゲンはバイヤーと言いながら顔を引きつらせていた。


「村に出るネズミはあんまり美味しくないんだよね」

「…美味しくないんだ」

「ククク貴重なタンパク源だからな。ただ残念ながら今は違うな、検死だ」


検死という言葉に興味を持ったスイレンは千空の隣に移動し手元のネズミをじっと観察する。
念のため、千空と同じように鼻と口は布で覆った。
ネズミの肺を確認した千空に何を見て何がわかったのか質問し、肺全体に紅い炎症があるので細菌が原因であることは間違いないと教えてもらう。
ただ、問題は菌の種類らしく万能薬といえども限度があり菌なら何でも殺せるわけではなく、原因が結核菌なら今の俺らに太刀打ちするしべはねえという千空の言葉にスイレンは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
クロム、コハク、ゲンも似たような表情を浮かべていると慌てた様子でスイカが走ってきた。
容態が急変したという報告に最悪の事態も覚悟して様子を見に戻ったが、ルリの様子を見て原因が肺炎レンサ球菌で肺炎という治せる病気であるという千空の言葉にスイレンは少しだけ涙が出た。
そして毎日サルファ剤を飲み続けたルリは順調に回復していき、ついに病気が完治したのである。
元気に外を走り回るルリはいつものおとなしさは何処へやらといった様子で無邪気に笑っている姿に思わず笑みがこぼれてしまう。


「大丈夫?」

「ん?何が?」


診療所で一息ついていたスイレンにゲンが声を掛けてきた。
ルリの病気が治り千空が村長として認められて盛り上がっている中、1人で診療所の方へと戻ってきたスイレンの様子が気になったのだ。


「おいで」


それだけ言って両手を広げるゲンを見て少し考えた後、スイレンはそっと近づきゲンの胸に寄りかかる。
ゲンの足の甲に水滴が落ちた。


「嬉しい時くらい泣くの我慢しなくていいんだよ」

「…なんでわかるのさ」


ずっと見てたからだよと言いながらゲンは優しくスイレンを抱きしめる。
花の香りに包まれながら流れる涙はしばらく止まらなかった。





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