君の瞳に映るもの

□10.助けるための覚悟
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襲撃者を告げる銀狼の声にいち早く反応したのはスイレンだった。


「ちょ、スイレンちゃん!?」


走り出したスイレンが橋を渡って居住区を突っ切ったところで金狼が誰かと橋の上で戦っている姿が見えた。
金狼がやられた場合は橋を切り落とさなければ子供たちのいる居住区に敵の侵入を許してしまうことになる。
スイレンは一瞬迷ったが武器を取りに橋の近くの自分の住居へと急いだ。
武器を手に橋へと向かえば金狼が敵である長身の男の足を掴み、いつ川に落ちてもおかしくない状態になっていた。
腹には刺されたのか酷い傷がある。
周りの様子から今橋の上にいる長身の男がゲンの言っていた氷月だということがわかった。
飛び出そうとするコハクを止めるコクヨウ、子供たちのことを考えて橋を落とせと言うターコイズ、そして橋を切り落とそうとしている銀狼。


「早く…しろ銀狼、切れ、俺はもう助からん」


その言葉に銀狼の動きが止まる。
泣き出した銀狼の悲痛な声。
選択を迫られている。
考える時間はあまり無い。
スイレンは千空に向き直り質問した。


「…千空、ハッタリでも何でもいい。あいつらを追い払う策はある?」

「一応な」

「…君の科学で、金狼の傷は治せる?」

「ああ、治せる」

「…わかった」


千空の言葉にスイレンは覚悟を決めて橋の方へと歩み寄る。
その瞳にもう迷いはない。


「治せるなら戦える」


靴を脱ぎ棄てトントンと数回その場で飛んでからスイレンは真っ直ぐに氷月へと突っ込んだ。
戦えない印象のあるスイレンだが実はそれなりに戦える。
そしてある一定の条件下であればごく短時間だがコハク以上のスピードを出すことができるのだ。
足元の金狼に気を取られて反応の遅れた氷月が槍を構えた頃にはすでに間合いの内側にスイレンが潜り込んでいた。
その手には武器が握られており、勢いよく振り抜いたそれを防御は不可だと判断した氷月が後ろへ飛び退いて避ける。
槍の間合いの内側から出ないようにスイレンは2撃目、3撃目を繰り出し橋の向こう側へ氷月を追いやることに成功した。
金狼はスイレンの行動の意図を汲み取ってくれたようでいつの間にやら氷月の足を離して橋を支えるロープを掴んでいる。


「君、速いですね。それに僕をしっかりと殺しに来た。実にちゃんとしている」


氷月は橋から3メートルほどのところまで後退していた。
3撃目の後に間合いの内側から追い出されて氷月の槍が左肩をかすめたがスイレンは横へ飛び退いて致命傷は回避した。
再度武器を構えて氷月を見つめる。
前髪の隙間から見える金色の瞳には明確な殺意と殺す覚悟が見て取れる。
それを見た氷月は殺意を向けられているにも関わらず楽し気に声を掛けてきたのだ。
あまりのおぞましさにスイレンは背筋に何か冷たいものを感じたが、それは表に出さず黙って氷月を睨みつける。


「上出来だスイレン」


千空の声とほぼ同時に何かが爆ぜる音が響き川に何かが落ちた。


「一旦引いて氷月ちゃんたち!この村ね、銃が完成しちゃってる……!!」


銃という単語を聞いて氷月以外の男たちが脱兎のごとく逃げていく。
ゲンも橋を渡り逃げていく男たちの後を追い森の中へと消えていった。
すれ違った際にゲンはスイレンにだけ見えるように声には出さず口パクで「お疲れ」と言っていた。
千空と少し言葉を交わした氷月はスイレンへと向き直り、君とはいずれまた戦うことになりそうですねと言い残して去っていく。


「…の、乗り切ったー」


突然緊張の糸が切れたスイレンはその場にへなへなとへたり込む。
今になって恐怖が襲ってきたようで手が震えており、氷月の槍がかすめた左肩に痛みも感じる。
いずれまたと言われたが正直冗談ではない。
あんな奴と戦うのは二度とごめんだと思っていると、いつまでも戻ってこないスイレンを心配したクロムが迎えに来てくれた。


「あんま無茶すんなよ」

「…だって」

「結果的に金狼も村も助かったけどよー、スイレンが死んじまったら意味ねえだろ」

「…ごめん」


腰が抜けたスイレンはクロムにおんぶされて診療所へと運ばれるのであった。





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