君の瞳に映るもの

□18.小さな独占欲
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科学王国は水車が出来たことで水力発電所を手に入れた。
バッテリーを作って電気を貯めることができるようになったので金狼と銀狼は発電をしなくてもよくなり、その分稽古の時間を増やすことに。
スイレンは朝だけ参加していて長時間の戦場にいられるようになるべく最小限の動きで攻撃を避けられるようになることを目標にしている。
そして、銀狼はスイレンに攻撃を当てるというのが本日の稽古の内容だ。
ちなみに、金狼はコハクに全力でしごかれている。


「全然当たらないんだけど!!」

「踏み込みが甘いし正直遅いかな。そんなんじゃ当たらないよ」


これでもスイレンは一時とはいえジャスパーから直々に指名されて門番をしていたのだからそれなりの実力がある。
氷月の攻撃に比べると速さも鋭さも足りない銀狼の攻撃を避けるのは容易い。
コハクからは隙があればどんどん反撃してくれと言われているのでそろそろ仕掛けてやろうかと思っていた。


「コハクちゃんとより楽だと思ったのに…」

「…へえ、甘く見られたもんだね」

「うわっ!!反撃してくるとか聞いてないんだけど!!」


上段蹴りを銀狼がギリギリ回避し距離を取ろうとするがスイレンは槍の間合いの内側に潜り込む。
距離を取るよりも懐に潜り込む方が小柄な体を最大限に活用できるということは氷月との戦いの際に証明済みだ。


「え、あれ?スイレンちゃんが消え…うひゃひゃひゃっ!!」

「隙あり」


視線が外れた隙を狙って死角に潜り込んだスイレンは銀狼からは消えたように見える。
後ろから攻撃をし掛けるのは流石に気が引けるのでわき腹をくすぐってやれば銀狼は笑い転げてその場にへたり込んだ。


「…わ、笑いすぎて死ぬかと思った」

「私が敵だったら死んでたね」

「…怖いこと言わないでよ」

「おっは〜、朝から頑張ってるね」


休憩することにした2人の元へゲンがやってきた。
少し前から稽古の様子を見ていたゲンは声を掛けるタイミングを窺っていたのだ。
おはようと返すスイレンと泣き言を言ってくる銀狼を見てゲンは反応が正反対過ぎて面白いなと感じていた。
そして、1つの提案をしてみることに。


「銀狼ちゃんが一撃入れられたらスイレンちゃんをとびきり可愛くしてあげるから頑張って〜」

「そんなんで銀狼がやる気になるわけ…」

「よし、やろうかスイレンちゃん!!」

「…なったよ」


銀狼がやる気になったのでまあいいかと稽古を再開する。
先程までとは違い銀狼の動きにはキレがあり、なかなかいい勝負が出来るようになった。
技術や経験の差でスイレンの方がやや優勢だったが、結局最後はスタミナ切れで銀狼の攻撃が掠り稽古は終了した。


「ゲン、ナイスだよ!!」

「でしょ〜」

「…もう好きにして」


スイレンの長い前髪は編み込みにされていて、こんなことも出来るのかとゲンの手先の器用さには驚かされた。
普段あまり見えないスイレンの顔が見えて銀狼がはしゃいでいる。
自分の顔なんか見て何が楽しいのやらと呆れつつ、後ろ髪をどうしようかと考えているゲンも楽しそうなので悪い気はしない。


「いっつもこうしてればいいのに!!」

「折角の美人ちゃんなのに勿体ないよね〜」

「…私こんなん出来ないよ」

「ゲンにやってもらえばいいじゃん」

「流石にそれは…」


流石にそれは迷惑だろうと思ったが、俺で良ければ毎日やったげるよ〜と笑顔なゲンを見てると結局断わる事ができなかった。


「んじゃ、明日から朝一でスイレンちゃんに会いに行くね」

「それ、本気なんだ」

「俺、スイレンちゃんには嘘吐かないって決めてるから。はい、出来た」


スイレンの後ろ髪はハーフアップになっていた。


「すっごく可愛いよ!!」

「ね〜」


ゲンと銀狼は同じようなテンションではしゃいでいたが、あるものを見て銀狼は口を噤んでしまった。
スイレンの髪はゲンの羽織と似たような紫色の紐で結ばれていたからだ。
用意周到な男である。


「銀狼ちゃん、どうかした?」

「…いや、なんでもない」


ゲンはニコニコと笑っているが宣戦布告にも似た何かを感じ、それ以上聞く事が出来ない銀狼であった。





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