君の瞳に映るもの

□20.伝わらない告白
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寒さも厳しくなってきたある日の夜、コハクに呼ばれて村の住人たちは森の中に集まっていた。
大きな木の下に千空、クロム、カセキがいて何やら準備をしている。


「何が始まるの?」

「さあ?俺も聞いてないんだよね〜」


ゲンも千空から何も聞いていないらしく今から何が始まるのか知らないらしい。
ただ、こういう時は決まって凄いものが見られるのでスイレンは内心ワクワクしながら待っていると雪が降ってきた。


「ヤベー雪だ。点灯テスト中止か?」

「いや、できれば今日がいい」


千空が手元のスイッチで電源を入れると木が眩く輝きだした。
輝いているのは先日までスパルタ工作クラブの3人が苦労して作っていた電球だ。
舞い落ちる雪にも光が反射してキラキラと輝く光景は見惚れてしまうほどに美しい。
初めて見る光景に村の住人たち息をのんだ。


「イルミネーション…なんか一気に戻ったみたいだね〜現代に」

「現代にはこんな素敵なものが他にもあるの?」

「沢山あるよ〜、夜景とか花火とか他にも色々」

「夜景?花火?」


ゲンがの口からわからない単語が次々と飛び出してくる。
よくわからないが素敵なものらしいので今後、科学王国が発展すれば今ゲンが言っていたものも見られるかもしれない。
スイレンは目の前の光景とこれからのことが楽しみで仕方がない。


「ここまで二か月。オホー、けっこうかかっちゃったの〜」

「いやまあ、予定通りだ」

「あ〜、もしかして今日ってクリスマスか…!!」


千空はそういやそうだな、偶然にもと言っているが実に嘘くさい。
ゲンにもウッソ〜と言われている。
スイレンはクリスマスとは何だろうかと気になったがゲンに聞こうとした矢先にクロムが大声を上げた。
バッテリーと電球があれば洞窟の奥も探索できると考えたらしい。
実にクロムらしい発想だ。
確かにイルミネーションを見る限り電球の明るさは申し分ない。
今まで行けなかった洞窟の奥に何があるのかスイレンも昔から気になっていたので是非この機会にクロムに謎を解き明かしてもらいたいものだ。
ひとしきり探索について語ったクロムは準備をするためにそそくさと村に戻っていった。
今日もクロムは通常運転である。


「クリスマスでもクロムちゃんはいつも通りだね〜」

「そのクリスマスって何?」

「クリスマスはもともとイエスキリストって人の誕生を祝う日って言われてるんだけど、現代だと家族や友達、恋人と美味しいもの食べてプレゼント交換をする行事、かな」

「宴みたいな感じ?」

「騒ぐための大義名分って意味では似たようなもんだね」


ゲンはお菓子メーカーやおもちゃメーカーの手の上で踊らされる日とも言っていたがそれはよくわからなかった。
だた、楽しいものということだけはわかったのでスイレンは現代についてもっと知りたくなった。
ゲンにあれこれと質問しているうちに夜も更けて寒さも増してきたので村に戻ることに。
もう既に大半の住人は村に戻っていて残っているのは数人だ。
村に戻る途中でスイレンは空を見上げて足を止めた。


「スイレンちゃん、どうかした?」

「月がよく見えるなと思って」


スイレンと同じように空を見上げたゲンの目に綺麗な満月が映り、夏目漱石の有名な逸話を思い出してぽつりと呟いた。


「今夜は月が綺麗ですね」


スイレンは夏目漱石を知らないので伝わらないことはわかっていたがゲンはどうしても言いたくなった。
風の音に紛れてスイレンの耳に届いたかはわからない。
でも今はそれでいい。
ゲンはそう思い早く戻らないと風邪ひいちゃうよスイレンの手を引いて歩き出したのだった。





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